【はじめに】
昨今、テクノロジーの発展や新しい観測技術などによって太陽系を離れた遥か遠くに “惑星” が次々と発見されています。
その一番の目的は、やはり「地球外生命体の可能性を探る」ことにありましょう。
地球に最も近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」にも “生命の存在に適している” とされる惑星「プロキシマb」(下想像図参照)が発見されていますが、すぐお隣とはいえ、現在の技術では到達までに何万年もかかる途方もない距離になります。
到達はムリとして、仮に知的生命体がすでに存在していたとしても、「もしも~し」「はいは~い」のヤリトリだけに 8 年以上も必要とされ、イマイチ現実味がありません。
そうした中、いつぞやより “生命体存在の可能性高し” として注目されている我々の庭先、土星の衛星「タイタン」に NASA の本格的調査が入ることとなりました。
2003 年に打ち出された NASA の長期計画、「ニューフロンティア計画」(移住可能性を含め、“太陽系内” の様々な調査を目的とした計画)の第 4 ミッションとして 2019 年に採用された「ドラゴンフライ」がそれです。
NASA 初、ドローン を探査機に使う画期的ミッションとして、発表以来注目を集めています。
土星の衛星「タイタン」ってどんな星 ?
「タイタン」とは土星を回る数多くの衛星のひとつで、1655 年にオランダの天文学者「クリスティアーン・ホイヘンス」(画像参照 Wikipedia より)によって発見されました。
探査機による調査としては…
❶ 1977 年に打ち上げた「ボイジャー1号&2号」により大まかなデータを取得。
❷ 1997 年に打ち上げた「カッシーニ + ホイヘンス・プローブ」によって詳しいデータを取得。
➌ 更なる広範囲 & 高精度な地表データを得るため、2027 年に新たな探査機を向かわせる
といった感じです。
2005 年、親機「カッシーニ」より放たれた「ホイヘンス・プローブ」は大気のデータを収集しながら 2 時間近く落下し、無事地表への着地に成功しました。
打ち上げから 8 年後のことです。
写真撮影など、地上においても 1 時間以上探査活動が行われ、これによって、それまで解明が難しかった地表等のデータを詳しく得ることができました。
金星とともに “スーパーローテーション” と呼ばれる超高速回転する大気を持つことで有名なタイタンですが、これは「ボイジャー」からのデータによりある程度推測されていたものが「カッシーニ + ホイヘンス・プローブ」によって確認されたものです。
金星のものと性質は異なるようですが、タイタンでは成層圏において秒速 200㍍ もの猛烈な風が観測されています。
“金星のスーパーローテーション” については以下別記事を御参考にされたし。
タイタンの大きさ
タイタン…
元はギリシャ神話のデカい神のことで、映画のタイトルや商品名など何かと使用頻度の高いワードです。
“星” としては知らなくてもどこかで見聞きしたことはあるのではないでしょうか。
とりわけ巨大なものに命名されやすいようですが、土星の衛星タイタンもやはりデカい。
直径は地球の 40% 程度 で、月よりデカく、約 5150㎞ 。
80 個以上発見されている 土星の衛星の中では最大のデカさで、太陽系のすべての衛星の中でも木星のガニメデに次ぐ 2 番目のデカさです。
さらに “惑星” である水星よりもデカく、土星から切り離せばその姿はまさに惑星としか思えないでしょう。
写真:Wikipedia より
タイタンの構造
写真は土星の輪の手前を通過するタイタンで、「カッシーニ」により撮られたものです。(Wikipedia より)
分厚いオレンジ色の大気に阻まれており外からは分かりづらいですが、ある意味 “地球そっくり” な星だといわれています。
タイタンの大気は地球と同じく 4 圏(下から、対流圏・成層圏・中間圏・熱圏)で構成 され、雨や風などの気象現象も発生します。
降った雨は川となって山を下り、地球同様に湖や海が形成されています。
それらが蒸発して雲を形成し、再び雨を降らせる、といった気象サイクルも地球と同じです。
そもそも “衛星” に大気が存在していること自体が珍しいことで、太陽系の全衛星の中でもまとまった大気が観測されているのはこのタイタンのみです。
重力は地球の約 14% とのことですが、こればっかはサイズの差から仕方ないでしょう。
タイタンでは地球の 7 倍近い力持ちになれるということです。
地球よりも分厚い大気を持つため地表の気圧は地球の 1.5 倍ありますが、生身の人間でも耐えられない気圧ではありません。
地球との決定的な違いは 2 つ !
まず一つ目が地表の気温で、平均約 -180℃ という超極寒。
届く太陽光は地球の 1/100 程度ですし、尚且つその大半が霧に遮られているため、当然っちゃあ当然です。
地球同様にタイタンの地軸は傾いているので四季も存在しますが、春でもポカポカ陽気になることはありません。
ちなみに、タイタンの 1 年は地球の約 30 年に相当するため、ひとつの季節が 7 年以上も続く ことになります。
二つ目は、地表に存在する液体が “水” ではなく “メタン” や “エタン” だってことです。
写真は「カッシーニ」のレーダー画像を着色加工したもので、タイタン北極地域の “メタン海” や “メタン湖” です。
(写真:Wikipedia より)
地球では “気体” のメタンやエタンも、超低温下では “液体” となるため、タイタンでは海なり湖なりとしての存在が可能なのです。
それらが蒸発し、雲となり、降る雨も当然にメタンやエタンです。
地球もタイタンも大気の主成分が窒素なのは同じですが、その他の成分が、地球は酸素、タイタンはメタン、が大半を占めていることからこうした違いが生じることとなりました。
そして、ここらで気になるのはやはり…
「生命体はおるんか !?」
ではないでしょうか。
タイタンでの 生命体存在 の可能性
専門家の弁からすれば、「想像可能な生命体」と「想像不能な異質な生命体」のどちらも可能性としてはありえるようです。
タイタンの地下深くには「 “水” による液体の海」が存在しているらしいデータもあり、もしここに生命体がいるならば、ある程度想像できるものであろうといわれています。
反面、地表でのメタンやエタンの環境下で生成された生命体については、地球環境とはまったく異なるため、もはや想像不能だとか。
…というより、その前に、メタンやエタンなどから生命体など生成されうるのか、が気になるとこではないでしょうか。
これについては 2017 年 7 月 、それを肯定するひとつの研究成果が NASA のチームから発表されました。
タイタン地表の生命体はビニールから !?
これまでの研究データにより…
❶ 太陽光線や土星からの高エネルギー粒子がタイタンの大気に衝突すると
❷ 大気中の窒素やメタンが化学反応を起こし「シアン化ビニール」が生成され
➌ メタンに溶け込んで雨として落下し
❹ 最終的には海や湖に「シアン化ビニール」が蓄積
…されることが分かっているそうです。
生物学上 “生命の誕生” には、内と外を隔てる細胞などの “膜” となるものが必要らしく、液体メタンの環境下では、この「シアン化ビニール」が “膜” として最適な物質だと過去のシミュレーションにより明らかにされているんだとか。
「カッシーニ」からのデータで、タイタン地表に「シアン化ビニール」の存在はある程度推測されていたそうですが、NASA のチームによるアルマ望遠鏡での観測によって、その存在が正式に確認されました。
ビニールを素材とした生命体とか…
確かに想像不能です。
謎に満ちたタイタン…
ミッション開始が待ち遠しいとこですが、2026 年の打ち上げ予定だったものがコロナの影響等で 2027 年に延期が決定されました。(2021 年 3 月現在)
2034 年にタイタン到着予定だったものも当然遅れることになるのでしょう。
とりあえずは気長に待つしかなさそうです。
タイタン探査ミッション 「ドラゴンフライ」とは
「ドラゴンフライ」は訳すと「トンボ」だそうで、使用するドローン型探査機の名前がそのままミッション名になったようです。
「トンボ」には似てるような似てないような…
とりあえず、そんじょそこらのドローンとは違う、けた外れの予算をかけた、頑丈、かつ、最新機能満載のドローンとなるのだけは間違いないでしょう。
「ドラゴンフライ」のスペック
使用される探査機は、8 枚の回転翼を持ったかなり大型のドローンのようです。
タイタンでは地表に届く太陽光が極度に少ないため “ソーラー充電” などは行えず、「RTG(放射性同位体熱電気転換器)」なるものを新たに開発したとの発表がなされました。
放射性物質が崩壊する時に発する熱から電気を得るシステムだそうです。
想定では着陸時の重量は約 450㎏ とされています。
「ドラゴンフライ」の飛行計画
「カッシーニ」からのデータによって着陸に最適な場所や探査すべきポイントなどはすでに選定されているようです。
調査期間は約 2 年半で調査距離は 175㎞ ほど。
赤道域にある「シャングリラ」(下写真の黒いエリア)という砂丘地帯に着陸した後、調査 → 飛行 → 着陸 、をちょこまかと繰り返しながら最後は「セルク」(下写真 〇) なるクレーターに到着する予定とのこと。
「セルク」では、炭素、水素、酸素、窒素、液体の水、からなる複雑な有機分子が長期にわたって存在していたことがすでに明らかになっているらしく、生命体調査においてハイライトとなるポイントなのは間違いありません。
最後に
“生命体の可能性” といえば、2020 年 9 月、英米日の国際研究チームにより発表された「“ホスフィン” 検出」のニュースが思い出されます。
生命とは無縁としか思われない地獄の金星から “生命由来たる成分” が発見されたとして関係者達を大きく沸き立たせました。
すぐさま反論が出されるなどして影を潜めてしまった「金星生命体説」ですが、真相を解明するには望遠鏡のデータだけでゴチャゴチャやってるより、探査機を向かわせた方がより確実でしょう。
金星に比べ、“衛星” のタイタンは存在感が薄く、ましてや「ドラゴンフライ」など聞いたこともない方がほとんどかと思われます。
ドローンの機動力を存分に発揮し、生命体のひとつも発見された日にゃ知名度もタイタン級になることは間違いありません。
今から 15 年後 ?? くらいが楽しみです。
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