“金星” に生命由来の成分(ホスフィン)が検出か⁉
過酷極まりない環境から生命体とは無縁と思われていた金星ですが、その大気中に生命の痕跡ともなりうる “ホスフィン”(リン化水素)が検出されたと英米日の国際研究チームから発表があり、2020 年 9 月 14 日付で、科学誌「ネイチャー・アストロノミー」に掲載されました。
以下は太陽から火星までの大まかな概要図で、太陽から 2 番目が金星。
地球とほぼ同じサイズながら、見るからに “生” と “死” の差を感じますね。
人気者だった金星も今ではすっかりその座を火星に奪われてしまいましたが、“ホスフィン” の発見によって再び人々の興味が金星に向けられ、同時に現在(2020 年 10 月現在)唯一の金星探査機である日本の「あかつき」にも大きな注目が寄せられています。
金星は地球に最も近い惑星で、尚且つ “地球と双子” とされてきたことから一昔前までは最も人気の高かった惑星ですが、旧ソ連の度重なる探査などによって、生命体とは無縁であろうあまりに過酷な環境が明らかとなり、次第に人々の関心は金星から遠ざかっていきました。
アメリカによる金星探査も 1989 年に打ち上げられた「マゼラン」を最後に打ち切られていましたが、今回の “ホスフィン” 発見により再び金星へのアプローチがなされるのかどうか、今後の NASA の動向が注視されています。
現 NASA 長官は金星探査の再開に前向きな発言をなさっているそうですが…
※ 下写真は 1982 年に撮影された金星の地表の姿で、旧ソ連の探査機「ベネラ 13 号」によるもの。
“ホスフィン” ってどんな物質?
“ホスフィン” は、別名 “リン化水素” ともいわれ、実験室での人工による生成以外では一部の動物の腸内や、酸素の少ない場所に生息する微生物からのみ生成される物質だそうで、人間など酸素を必要とする生物にとっては猛毒となる物質だそうです。
腐った魚のようなニオイの可燃性ガスで、常温の空気中でも自然発火するとか。
第一次大戦では化学兵器として使われ、現在では半導体の製造など一部産業において使用されています。
地球上では生命活動以外の自然現象で生成されることはないことから、金星の “ホスフィン” も
「生命体が作り出したものではないか!?」
と、関係者を色めき立たせるに至ったというわけです。
しかしながら、金星は生命とは無縁とされてきた過酷な環境の惑星です。
はたして生命体の存在などありえるのでしょうか ??
「金星」ってどんな星?
金星を一言でいえば “地獄” でしょう。
まだまだ謎多き天体ですが、解明された事実から誰しもがそう言います。
二酸化炭素が 96% を占める薄暗い大気に濃硫酸の雲、乾燥しきった岩だらけの地表は鉛をも溶かす 460 度の高温で、気圧は地球の 90 倍(約 1000 メートルの海底に相等)
人間は瞬時にペチャンコ & 丸焦げで、普通のヒトが “地獄” に対して持ち合わせているイメージそのものが金星の姿だとされています。
ただ、“ホスフィン” が検出された赤道上空の地表から 50㎞ 付近に関しては、気温も気圧も比較的穏やかで、地球上の微生物なども十分に生存可能だといわれており、生命体存在の可能性についてもカールセーガンなどによってかなり以前から指摘されてきました。
“ホスフィン” 検出の背景 等
今回の “ホスフィン” 検出はハワイとチリの 2 か所にある高精度の望遠鏡を使用したもので、その検出量は雷や太陽光の化学反応など金星の過酷な自然現象からしてもあり得ない数値だとされています。(金星の自然現象ではせいぜい検出量の 1 万分の 1 程度しか生成されない)
※ 写真はチリのアルマ望遠鏡の一部
また土星や木星にも大量の “ホスフィン” が検出されていますが、それらは中心付近の高温・高圧の元で生成されたもので、金星などエネルギーの少ない岩石惑星で自己生成することはできません。
さらに、“ホスフィン” はその性質上、金星大気のような強酸下ではすぐに破壊されてしまうらしく、連続しての検出は、生命体の存在、あるいは未解明な何かのメカニズムが継続的に働いているとしか考えられない、のだそうです。
今後の真相解明にあたって
今回の “ホスフィン” 検出について、
「他の物質が何らかの不具合で “ホスフィン” と間違えて検出された可能性も捨てきれない」
と、ある関係者は言っています。
発見チームも、さらなる調査・分析の必要性から他の望遠鏡での追加観測を予定してたそうですが、コロナの影響で実現が叶わなかったとか。
これらのことから、“生命体存在” の確証を得るためにはまだまだ越えるべきハードルがいくつもあるといえそうです。
地球上で観測・分析を続けるのは当然として、最終的にはやはり
「金星に探査機を飛ばして地表や雲のサンプルを回収することが不可欠」
と専門家も申しております。
こればかりは信頼性の高いデータを積み重ねつつ、NASA が重い腰を上げるのをただただ待つしかありません。
ホスフィン検出のデータを再検証したワシントン大学の研究チームによって、「二酸化硫黄が誤って検出された可能性が高い」とする発表が後になされました。
当時のアルマ望遠鏡の精度にも少々問題があったようです。
だとすると、「二酸化硫黄」は元々金星に存在する成分 ですので残念な限りですが…
いずれにせよ、直の現地調査によって早くスッキリさせてほしいとこです。
日本の探査機「あかつき」でサンプル回収できないの ?
ミッション途中(2020 年現在)である日本の探査機「あかつき」は、謎に包まれた金星の “大気のメカニズム” を解明するのが主な目的とされています。
ですので、サンプル回収はおろか、地球への帰還も「あかつき」にはありません。
金星の周りをグルグル回りながら、燃料が尽きるまでひたすら地球にデータを送り続けるのが使命とされているのです。(燃料の寿命は 2020 年末頃に尽きると予想されています)
今回のミッションでは “謎中の謎” とされてきた「スーパーローテーション」の実態解明 が一番の目的とされていましたが、2020 年 4 月、多数のカメラを駆使しながら 見事そのメカニズムの解明を果たしました。
「スーパーローテーション」とは金星最大の謎とされていたもので、“緯度に関係なく、全球一律自転と同方向にその上層部を東から西に吹く時速 360㎞ にもなる猛烈な風(4 日で 1 周)” のことをいいます。
金星の自転スピードは “人間のジョギング程度” という異常に遅いものであるにもかかわらず、その同じ方向になぜ 60 倍以上もの速い風が吹いているのか、といった点が通常のメカニズムからはまったく理解不能で、研究者たちの頭を長年悩ませ続けてきました。
“自転” そのものも大きな謎のひとつとされており、他の惑星とちがって金星だけその方向が逆向きなのです。
これも物理学上は説明困難で、惑星形成後に起こった「何か」が原因であろうとされています。
「何か」については諸説あるものの、まだまだ決定打に乏しいのが現状でしょう。
【JAXA (宇宙航空研究開発機構)】参考動画
〖金星大気の謎に挑む ~ 金星探査機あかつき〗
最後に
「明けの明星」や「宵の明星」ともいわれ、日の出前か日没後のわずか 3 時間しか拝むことのできない金星。
にもかかわらず他を圧倒するその輝きは古来より多くの人々を魅了してきました。
「ヴィーナス」といった美しい女神の名が冠されていることからもその愛されぶりが窺い知れましょう。
しかしながらその美しい輝きは恐ろしい濃硫酸の雲によるもので、金星の実態は「ヴィーナス」とはほど遠い、紛れもなく「メドゥーサ」。
とはいえ、海の痕跡らしきものもあって元は金星も地球と似た環境だったという説もあり、どこかの過程で両者の運命が大きく分かれてしまったなどといわれています。
早い話し、温暖化のなれの果てが金星の今の姿です。
そして今まさに地球が直面しているのはその温暖化。
“地球外生命体” に思いを馳せるのも悪くはないですが、地球の行く末を暗示してくれる、ある意味 “反面教師” としての金星もどこかに意識すべきかもしれませんね。
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