【はじめに】
ミツバチの “働きバチ” といえば、一般に花からミツを収集している姿だけを想像しがちですが、当然それだけではありません。
ミツの収集に出向くのはキャリアを積んだベテランのハチ達で、そこに至るまでには、まず巣の中で一定期間キャリアを積む必要があります。
短い一生を女王バチと巣に捧げながら一心不乱に働き続ける “働きバチ(メスバチ)” 達の健気な姿をご紹介いたしましょう。
ミツバチ(働きバチ)の働き方
ミツバチの社会は、完璧なまでの分業制で成り立っていて、羽化してからの日数などでその役割がきっちり決められています。
勤務形態は大きく分けると “内勤” と “外勤” からなり、まずは内勤の簡単な仕事からスタートします。
掃除に始まり、女王バチや幼虫の世話、巣の建設や修繕、受け取ったミツや花粉の貯蔵… などなどで、ステップアップしつつ様々な仕事をこなさなければなりません。
女王バチと生後 3 日目までの幼虫に食べさせる “ローヤルゼリー” や、巣の建設材料である “ミツロウ” といったものは、食べたミツや花粉などから必要に応じて働きバチの体内で作り出されます。
通常働きバチの幼虫は、生後 4 日目以降になるとハチミツと花粉に食事を変えられますが、時には継続してローヤルゼリーを与え続けられる場合もあります。
なんらかの異常事態で、女王バチが行方不明になったり突然死した場合です。
“分蜂”(定員オーバーによる女王バチのお引っ越し)や寿命による自然死とはちがい、このような場合は当然 “王台”(王位継承者専用のベッドルーム)などは作られておらず、女王候補の幼虫も存在していません。
そこで働きバチはフル稼働で、いまだローヤルゼリーしか食べていない “生後 3 日目までの幼虫” を探し回り、発見したら大急ぎで狭いベッドルームを “王台” へとリフォームします。
そして、4 日目以降もひたすらローヤルゼリーを与え続けることによって、本来働きバチになる運命だった幼虫を強制的に女王候補とするのです。
いわば、ミツバチ版 “シンデレラストーリー” ってわけですね。
一定期間内勤に従事し、さらに外勤の訓練を経た彼女達は、ようやくフライトデビュー(蜜や花粉の採集)を果たすことができます。
ミツバチ(働きバチ)の意思伝達方法
ミツバチの働きバチは、言葉にかわるものとして、いくつかの意思伝達手段を持ち合わせていることが知られています。
中でも有名なものが “8 の字ダンス” といわれるもので、これはオーストリアの動物行動学者、 “カール・フォン・フリッシュ” によって発見されたもので、その功績によって彼にはノーベル賞(1973 年)が授与されました。
これは、蜜源を発見した働きバチが巣に戻った時に行う行為で、お尻を震わせながら “8 の字” を描き歩く ものです。
お尻フリフリのスピードや体の角度などから、仲間に蜜源の距離や方向を正確に伝えているとされ、応じた仲間は迷うことなく一直線に蜜源へと向かいます。
ミツバチの各個体は、体内時計や磁気センサーなどを持ち合わせ、太陽の位置や風向きなども計算にいれながら正確に飛び回っているといわれています。
とはいえ、まだまだ謎の部分も多く、いまだ全容解明にはいたっていません。
“8 の字ダンス” 以外にも、嗅覚に働きかける “フェロモン” を利用した意思伝達も解明されており、敵を発見した場合や “死” を悟った時など、状況に応じてニオイ成分を変え、伝えるべきことを仲間に伝えているそうです。
差し迫った “死” を仲間に伝えるのは、不衛生になる自身の遺体をいち早く巣から運び出してもらうための「最後のお願い」なんだとか…
いくら清潔好きとはいえ、健気で切ない最後ですね。
役立たずで追い出されるオスバチとはえらい差です。
【参考動画】
〖ミツバチの8の字ダンス【日本みつばちの養蜂】 How to Beekeeping〗
ミツバチの巣の構造
“ハニカム構造” といった言葉をよく耳にするとは思いますが、丈夫でコスパの高いその構造物はまさにミツバチの巣がモデルとなっています。
狭いスペースを有効活用し、少ない材料で頑丈な構造物を作るには六角形を積み重ねるのが物理的にベストとされており、今ではあらゆる構造物に採用されています。
ひとつひとつの巣房の壁は 0.1㎜ 以下の超極薄ながら、濃厚なミツロウの成分とハニカム構造によって、巣の数十倍もの重さのハチミツに耐えられる丈夫なつくりとなっています。
また、溜まったハチミツが外部に流出しないよう、必ず巣の入り口はほんの少しだけ角度を上げて作られるそうです。
巣の内部は温度変化に弱い幼虫を守るため、季節に関係なく 30 ~ 35 度程度に保たなければなりません。
そのため、暑くなると働きバチ達は入り口に並んで送風や換気を行い、寒くなると巣の内部に密集し、筋肉を震わせながら体温を上昇させるなどして巧みに温度調整します。
入口で羽を震わせても温度が下がらない時は、お腹に溜めた水を巣の内部で吐き出すことにより、気化熱を奪って冷却します。
巣の入口で羽を震わす際、“トウヨウミツバチ” と “セイヨウミツバチ” は体の向きが逆になります。
“トウヨウミツバチ” は頭を外に向けて外気を送り込む扇風機の役割を、“セイヨウミツバチ” は頭を内側に向けて巣内の熱気を吐き出させる換気扇の役割をするそうです。
ミツバチの激減
ミツバチは、自身や幼虫の栄養源として、また “ローヤルゼリー” や “ミツロウ” を生成させるモトとして、花のミツや花粉を収集します。
それによって、我々も美味しいハチミツを口にすることが可能となります。
しかし忘れてならないのが、彼女達の “ポリネーター”(花粉媒介者)としての重用な役割であり、この役割こそが我々の食卓に最も大きな影響を及ぼすものではないでしょうか。
その食卓を揺るがす事態が、1990 年代以降、ヨーロッパを発祥として現実のものとなっています。
「蜂群崩壊症候群」(CCD)と命名されたそれは、日本を含め世界各地へと広がり、ミツバチの大量死や大量失踪などの事例が数多く報告されているのです。
様々な原因が推測されましたが、2012 年、科学誌「サイエンス」や「ネイチャー」に「蜂群崩壊症候群」 と “ネオニコチノイド系農薬” との関連性についての論文が掲載され、それが大量死の直接的原因だという科学的証明がなされました。
とはいえ、温暖化やウイルスなど、その他さまざまな原因も複合していると考えられており、また被害報告なども少ないことから日本における “ネオニコチノイド系農薬” への規制は EU などに比べ遅れているのが現状です。
主に殺虫剤として散布される “ネオニコチノイド系農薬” は、成分構成がタバコのニコチンに似ており、水溶性、浸透性、残留性が特徴の神経毒とされています。
最後に
レタス、トマト、玉ねぎ、きゅうり、イチゴ、ウメ、リンゴ、スイカ…
毎日の食卓にお馴染みのあらゆる野菜や果物は、ミツバチ達 “ポリネーター” あってこそのものです。
世界の 30 ~ 40% もの農産物 は、花から花へと飛び回るミツバチ達が受粉を媒介することによって後世が残されます。
当然のことながら、ミツバチがいなくなればハチミツが手に入らないだけでなく、食事メニューのレパートリーを大幅に縮小せざるを得なくなるでしょう。
仮に、手に入ったとしても、希少なものとして庶民の手に届かぬ高価なものになるかもしれません。
安価で美味しいサンドイッチが今後とも食べ続けられるよう、国を問わず足並み揃えてミツバチの保護に取り組んでいただきたいものです。
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