人工イクラ(人造イクラ) とは
食品とは無関係の化学会社が偶然の副産物として開発したことで話題になった、世界初の「人工イクラ(人造イクラ)」。
“本物 = 流通量が少ない = 高価格” という時代背景の中で量産体制が確立され、庶民にも手の届く “コピー食品” として一時は回転寿司店など日本各地に広く普及していました。
ロシアからの輸入などで需要と供給のバランスが崩れた今ではなかなかお目にかかれなくなりましたが、業務用など一部についてはまだ製造販売されています。
人工イクラ(人造イクラ) の開発会社や販売会社 等
人工イクラを開発したのは「日本カーバイド工業(株)」という、富山県に設立(昭和 10 年)された化学系の会社で、開発当初は「(株)スギヨ」なる会社から〝つぶつぶ〟なる商品名で発売されました。
現在は両社とも製造や販売は行っておらず、通販などで簡単に手に入るのはキューピー(株) の業務用ブランド「ほしえぬ」から販売されている〝サーモンドロップス〟のみかと思われます。
「(株)スギヨ」は石川県に籍を置く「杉与商店」が組織変更した会社で、1973年に日本初の「かに風味かまぼこ」を製造販売したことで知られています。
人工イクラ(人造イクラ)開発の経緯
“接着剤用のカプセル” を開発する過程で生成されたものがイクラに似ていたことから、
「この際本格的に “人工イクラ” を作ってみよう !」
となったのがコトの始まりのようです。
予算とGOサインを出したであろう社長に敬礼 !
当時携わった某研究者によれば、「食品の性質を把握して他の原料でそっくりなものを作る」といった行為は、本業たる高分子工業の「“人造繊維” や “人造皮革” を製造する」といったものときわめて類似していることに気づいたのが本格的取り組みのきっかけになったとか。
人工イクラ(人造イクラ)の原材料
見た目からもお分かりのように、イクラの構造そのものは素材(中身のほとんど)と目玉と皮膜だけのいたって単純なものです。
それらを、どういった材料を用いてホンモノそっくりに仕上げるか、がまず最初の課題となりました。
さまざまな試行錯誤の結果、好適とされたのが以下の通り。
【素材】 海藻から抽出される “カラギーナン”
※ その他の候補として、陸上植物から得られる “ローカストビーンガム” や “アラビアガム” なども
【目玉】 上質の “サラダ油”
【皮膜】 海藻から抽出される “アルギン酸ナトリウム”
そして、素材や目玉に使う着色料には “天然の赤色系色素” を用いるのが好ましい、とされました。
恐るべし「コチニール色素(カルミン酸色素)」(下記事参照)が使われたかどうかは不明。
皮膜に使う “アルギン酸ナトリウム水溶液” は性質上 “塩化カルシウム水溶液” なるものに接触させるとその瞬間にゲル状の薄い膜が形成されるらしく、それが本物のイクラの皮(コラーゲン)とそっくりなんだそうです。
ややこしい成分名がズラリでワタクシの頭はすでに崩壊ぎみですが…
頭といえば、「頭にいいとされる成分(DHA 等)」は天然イクラにしか含まれませんのであしからず。
人工イクラ(人造イクラ)の製造方法
各原料の組合わせによってイクラそっくりのものは簡単にできあがったようですが、開発中もっとも頭を悩ませたのが「大量生産の方法」だったそうです。
失敗を重ねたあげく考案された装置が、「三重ノズルの中心から順に、それぞれ目玉と素材と皮膜の材料(カラギーナン & サラダ油 & アルギン酸ナトリウム水溶液)を同時に吐き出させ “塩化カルシウム水溶液” めがけて落とす」といったものでした。
三種合体の液体は、落下中に表面張力の作用で丸みを帯び、フィニッシュとして “塩化カルシウム水溶液” に落ちた瞬間 “アルギン酸ナトリウム水溶液” と反応を起こし皮膜が形成される、といった仕組みのようです。
大量生産が可能になったことによって日本全国への流通も可能となり、一般庶民に向けた “ニセイクラ” がお安く提供されるようになりました。
※ 画像:イメージ
人工イクラ(人造イクラ)の安全性や見分け方
そもそもの材料が天然由来のものですし、行政庁の認可も得ていることから基本的に人工イクラは安全だといわれてますが、素材 に使われる “カラギーナン” に関しては、動物での実験で発ガン性などが指摘され、国によっては一部食品への使用が禁止されています。
見た目や味は、極めてホンモノに近いといわれている人工イクラですが、その性質上簡単に見分けられるいくつかの方法があります。
現在では「ニセモノ !」と判定されるイクラにそうそう出会うことはないでしょうが、出会えばその低い確率からある意味「アタリ」かもしれません。
…てことで、以下、よく知られる見分け方です。
回転寿司店やファミレスなどでそれとなく試してみてはいかがでしょうか。
1 お湯に入れて皮膜が白く濁ればホンモノ
(コラーゲン = タンパク質の作用による)
2 粒を転がして中の目玉が動かなければホンモノ
(卵黄に固定されてることによる。ニセモノは比重の軽い油が注入されてるだけなので常に上を向く)
自宅で作れる「人工イクラ実験セット」
苦労を重ね、大量生産にまでこぎつけた “人工イクラ” も時代の波には逆らえず今ではすっかりお目にかかりにくいものとなってしまいました。
ただ作ること自体は簡単で、「楽しく学べて食べられる」といったことから学校での理科の実験などではもっぱら人気を博しているそうです。
そうした背景から、自宅で簡単にできる「人工イクラ実験セット」なるものも市販されるようになりました。
工夫次第でさまざまな味や色にすることができるらしく、大人も子供も楽しめそうです。(「たのしいおすしやさん」等、チビッコ向けとしてスーパーのお菓子コーナーなどではこれと類似したモノも売られています)
コロナ禍で巣ごもる中、 “人工イクラ” のウンチクでも語りながらご家族皆さんでご挑戦されてみてはいかがでしょうか。
【「人工イクラ実験セット」のご購入に 】
お申し込みの際はリンク先にて再度ご確認をお願いいたします。
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