【はじめに】
生態系を始めとしてまだまだ未解明なものが多い “海の中” ですが、「海底火山」といわれるものもそのひとつではないでしょうか。
海底の火山は陸上のそれよりも遥かに多いといわれていますが、数や場所など、その大半について詳しいことはわかっていません。
事前に発見することが難しく、噴火後に、たまたま近くを通りかかった船舶や航空機などの報告によってその存在が明らかとなるケースがほとんどのようです。
そんな中、自発的、積極的に調査が行われ、詳しい状況が明らかになりつつある日本の海底火山 “大室(おおむろ)ダシ” は珍しいケースといえましょう。
とはいえ…
「オオムロ… 何それ ??」
て方が大半かと思われます。
漁業関係者、火山学者、地元の方々などはご存じかもしれませんが、ほとんどの方は名前だけ聞けば調味料か何かと勘違いするのではないでしょうか。
大室(おおむろ)ダシ とは
“大室ダシ” とは、伊豆大島にほど近い、浅い海を形成する “海底の高台” のことをいいます。(上図 〇)
紛らわしい “ダシ” については何かの略なのか方言なのか、調査及ばずです。
昔から良質の漁場として有名ですので、漁業関係者や釣り好きの方には馴染み深い場所かもしれません。
黒潮の流れが海底の斜面にぶつかることによって、深海の栄養豊富な海水が高台の浅瀬に湧き上がります。
それにより植物プランクトンが大量に発生し、それを食べる 動物プランクトン → 小魚 → 大型魚、といった食物連鎖が形成され豊かな漁場となっています。
大室(おおむろ)ダシの詳細 等
東京都、伊豆大島の南方約 20㎞ に位置する大室ダシは水深 100 ~ 150㍍ に直径約 20㎞ の平坦な頂をもつ海底火山で、伊豆小笠原では 八丈島 と同規模で最大級とされています。
その中央部には “大室海穴(おおむろかいけつ)” とよばれる直径約 1 ㎞ の凹地(水深約 200㍍ で現火口とされる)も存在し、2007年以降、JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)による無人潜水艇「ハイパードルフィン」などを用いた綿密な調査が数回にわたって広範囲に実施されました。
それらの調査結果から、すでに活動を終了していると思われていた大室ダシが大きな危険をはらんだ “活火山” だと判明したのです。
大室(おおむろ)ダシの調査概要 等
【2007 年の潜航調査により、大室海穴の底部で高い地殻熱流量を観測】(写真 1)
【2012 年の潜航調査により、大室海穴の底部一帯で最高約 200℃ にもなる活発な熱水噴出孔を発見し、2007 年と同様の高い地殻熱流量も再確認】(写真 2)
【2016 年の潜航調査により2012 年と同様の活発な熱水活動を再確認】
…などから大室ダシの深部では依然マグマが活発、かつ、継続的に活動していると認識されるに至りました。
地殻熱流量とは地球内部から地表に向かって放出される熱量のことをいい、地中深部にマグマなどの高温源が存在すれば高い数値が計測されるそうです。
また、堆積物等により肉眼ではわかりませんが、大室海穴を中心に、直径約 8 ㎞ の巨大な陥没地形らしきものも調査で確認されており、過去の激しい噴火によって形成された カルデラ では、との見方が強まっています。
※ 画像:Wikipedia より
その他、頂上の平坦部には直径 50㍍ 程度の溶岩ドームが広く分布していることも認められ、それらのひとつを解析すると新鮮な流紋岩で構成されていることがわかりました。
このことは、直近の火山活動が大室海穴の周辺だけでなく大室ダシ全体 にわたっていることを示しており、マグマ活動の活発さを物語っているそうです。
「えっ !? それって噴火が近いんじゃねえの ??」
と素人的には思ってしまいますが大丈夫なんでしょうか…
現在活動中の大室ダシのマグマ成分は、各種データから「流紋岩質」(下図参照)だとされていますが、場所によっては玄武岩質やデイサイト質の溶岩等も数多くみられ、太古は複数の火山の集合体(バケモノ !?)だったのでは、といわれています。
※ 写真:イメージ
マグマを構成する岩石質の主だったものは、玄武岩、安山岩、デイサイト、流紋岩などであり、日本の火山のほとんどは安山岩質だとされています。
各岩石の特徴は以下の通り。
2022 年 6 月 29 日、 JAMSTEC によって「大室ダシ」が 13500 年前に海底噴火を起こしていたこと、さらには “海底から直接採取した火山岩の年代を溶岩に含まれる水の濃度を用いて推定する” といった新手法によって、約 7000~10000 年前にも噴火活動を起こしていたことを突き止めた、とする発表がなされました。
詳しくは以下にて。
〖JAMSTEC プレスリリース〗
海底火山の噴火の特徴
噴火のメカニズム自体は海底火山も地上の火山と同じだそうですが、“水の中” といった特殊な環境から噴火の規模や被害等は地上のそれとは大きく異なります。
ある程度以上の深さにある海底火山は、海水の膨大な水圧によって爆発力が抑え込まれ大きな被害にいたることはほぼないそうです。
大半は発見すらされないでしょう。
最も危険なのは【浅い海に存在する海底火山】です。
大室ダシがまさにそれで、100 ~ 200㍍ 程度の浅い海では水圧で噴火の爆発力を抑え込めないだけでなく、マグマが海水に直接触れることによって “マグマ水蒸気爆発” といった、より大規模な爆発が発生しやすくなるそうです。
マグマ水蒸気爆発 とは
“マグマ水蒸気爆発” とは、上昇したマグマが海水、湖水、地下水などに “直接” 触れることによってその水分を “一気” に気化膨張させ、爆発力を大きく UP させるものです。
熱いフライパンに水滴を垂らした時にジュッと弾け跳ぶ、といったイメージだとか。
※ 写真:イメージ
その他の噴火形態には、マグマ自体の爆発力による “マグマ爆発” 、地下水などがゆっくりと熱せられて(マグマに直接触れず)爆発を起こす “水蒸気爆発” などがあり、もっとも危険性の高いのは “マグマ爆発” だとされています。
“明神礁(みょうじんしょう)” における「第五海洋丸」の悲劇
日本で起きた海底火山噴火に伴う人的被害として最も知られているのが “明神礁” でのものではないでしょうか。
明神礁とは 1952 年 9 月 17 日にカツオ漁船「明神丸」が伊豆諸島南部において発見した海底火山のことですが、その約 1 週間後、現場に赴いた調査団や乗組員など計 31 人を乗せた海上保安庁の調査船「第五海洋丸」が現場海域で乗組員もろとも消息を絶った、といったものです。
船体の破片などは回収されたものの、「噴火に巻き込まれたようだ」程度のことしかわかっておらず、詳細についてはいまだ明らかとなっていません。(一部には、魔の海域「ドラゴン・トライアングル」と関連付けるミステリアスな説も…)
この一件をきっかけとして海底火山調査の危険性が大きく認識され、以後は無人システムを導入するなど慎重を期するようになりました。
ちなみに、この噴火で海上に姿を現した “島” は数日後には水没したそうです。
海底火山噴火の恩恵
浅い海の海底火山噴火は大きな危険が伴う反面、新たな “島” が誕生するかもしれないといった、おそらく唯一であろう期待もあります。
写真は 1963 年に海底火山の噴火によって出現したアイスランドのスルツェイ島で、2008 年には世界遺産にも登録されました。
貴重な鉱物でも存在しない限り “島” そのものに大きな価値はないかもしれませんが、出現ポイント次第ではその国の “排他的経済水域” を拡大させ、新たな天然資源の開発などで大きな恩恵を得る可能性はあります。
とはいえ、ほとんどはすぐに水没してしまうようなので極めて低い確率でしょうが…
※ 画像 Wikipedia より
写真の「沖ノ鳥島」は、日本最南端の今にも水没してしまいそうな島ですが、この島のおかげで日本は陸地面積以上の排他的経済水域を得ています。
ムリヤリ建てたようなインベーダー風の建造物にその重要さがうかがえましょう。
都心から 1740㎞ も離れていますが一応は東京都に属します。(沖ノ鳥島は海底火山噴火による新島とは関係ありません)
※ 写真 Wikipedia より
最後に
伊豆大島など、周辺陸地の岩石調査などから、大室ダシが最後に起こした大規模な噴火は1万年近く昔のようです。
長年噴火していないとはいえ、前述の調査データや海底の状況などから油断は禁物でしょう。
未知なる要素の多い海底火山はその噴火規模や被害想定なども難しいようですが、陸地にほど近い大室ダシが噴火すれば住民生活への重大な影響は必至です。
近いうち起こりうる災害としては “富士山噴火” や “南海トラフ地震” などが本命かと思われますが、それらのすぐ横では “大室ダシ” も虎視眈々と鼻息を荒げています。
展開次第ではノーマークのダークホース、【オオムロダシ】がドカンと大穴を開けるかもしれません。
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