【はじめに】
オーストリアが生んだ 1700 年代の偉大な作曲家《ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト》。
クラシック音楽に興味はなくともその名は誰もがご存知でしょう。
彼の残した多くの作品の中でもとりわけ不気味なイメージが持たれ、アカデミー賞など数々の賞を受賞した映画【アマデウス】の題材ともされたのが、死者へのミサ曲(聖歌)【レクイエム】。
作曲半ばにて《モーツァルト》が死を迎えたとされる有名な作品です。
《モーツァルト》は【レクイエム】の作曲依頼を受けたその同じタイミングで体調に異変をきたし、作業進行と併せるかのように病状は悪化し続け、発病から 3 カ月も経たずに 35 歳という若さでこの世を去りました。
映画【アマデウス】の中でも得体の知れぬ男が晩年の《モーツァルト》宅をたびたび訪れますが、やはり長年【レクイエム】が不気味なものとされてきたのは、この “使者 & 依頼者の素性が謎” とされていたからに他なりません。
その使者を、まるで《モーツァルト》をあの世へと導いた “死神” であるかのように語られてきたのもその要因の一つです。
が、1964 年、その 使者 & 依頼者 の名が判明し、それまで謎に包まれてきた【レクイエム】の真相がようやく明らかとなりました。
果たして誰が何の目的で作曲を依頼したのか、未完に終わった作品は《モーツァルト》の死後どうなったのか、などなど、映画【アマデウス】ではイマイチよく分からなかった【レクイエム】の真実をその背景とあわせ詳しくご紹介。
映画【アマデウス】&不気味な伝説で有名な《モーツァルト》の最後の遺作【レクイエム】 その 謎・背景・真相 とは!
《ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト》とは、あの誰もが知る名曲、〖アイネクライネナハトムジーク〗を作曲されたお方ですが、もしピンとこないようであれば上題名をクリックして思い出して下さい。(※ 音量注意)
で、【レクイエム】の記事を書く以上《モーツァルト》個人についてもしっかり紹介しようとも思ったのですが、情報が膨大すぎてやはりそこに深く踏み込むのはヤメにしました。
なので、彼個人を細かくお知りになりたくば〖Wikipedia〗ででもお願いします。
てなわけで、《モーツァルト》の晩年、とりあえず【レクイエム】の作曲依頼を受けて以降、それが完成するまでの簡単な時系列からまずはご紹介いたしましょう。
【レクイエム】の受注から完成まで &《モーツァルト》の死因
❶ 1791 年 8 月、ある者の “使者” だと言う男がウィーン(オーストリア)にある《モーツァルト》宅を訪れ、【レクイエム】の作曲を依頼し、高額な報酬の一部を前払いして去って行った
❷ 翌月、かねてより取り掛かっていた【魔笛(まてき)】の作曲を完成させた《モーツァルト》はすぐさま【レクイエム】の作曲を開始
❸ 【レクイエム】の作曲開始とほぼ同じタイミングで《モーツァルト》の体調に異変が生じ、やがて自力での作業が困難なほどに病状が進行し、弟子《ジュースマイヤー》らがそのサポートに加わる
❹ 《モーツァルト》の病気は悪化の一途を辿り、同年 12 月 5 日、35 歳の若さにて死去
➎ 未完成だった【レクイエム】の続きを《ジュースマイヤー》ら弟子が引き継ぎ完成させる
《モーツァルト》の本当の死因はリウマチ熱?
《モーツァルト》のミサ曲【レクイエム】ってどんな曲?
死者の安息を神に願うカトリック教会のミサ曲(聖歌)「レクイエム」。
《ヴェルディ》《フォーレ》の作品とともに「三大レクイエム」の一つに数えられる《モーツァルト》の【レクイエム】ですが、上でも記したように、その全てが《モーツァルト》単独で作られたものではなく、多くに弟子(主に《ジュースマイヤー》)のサポートがなされています。
これ以前の部分に関しても同様で、《モーツァルト》がすべてを単独で作曲したわけではなく、弟子が一切関わらずに作られたものは全 14 曲中の第 1 曲目のみだとされています。
ちなみに以下が全 14 曲のタイトルですが、 3 曲目くらいまではほとんどの方がどこかで聞き覚えがあるのではないでしょうか。
(中でも “第 3 曲目は特に有名な曲でテレビや映画などでもよく用いられている” とのこと by Wikipedia)
個人的には以前トロンボーンを吹いていたこともあり、トロンボーン & 男女美声のソロが素晴らしい第 4 曲目もお気に入りです。
- 第1曲 レクイエム・エテルナム【永遠の安息を】
- 第2曲 キリエ【憐れみの賛歌】
- 第3曲 ディエス・イレ【怒りの日】
- 第4曲 トゥーバ・ミルム【奇しきラッパの響き】
- 第5曲 レックス・トレメンデ【恐るべき御稜威の王】
- 第6曲 レコルダーレ【思い出したまえ】
- 第7曲 コンフターティス【呪われ退けられし者達が】
- 第8曲 ラクリモーサ【涙の日】
- 第9曲 ドミネ・イエス【主イエス】
- 第10曲 オスティアス【賛美の生け贄】
- 第11曲 サンクトゥス【聖なるかな】
- 第12曲 ベネディクトゥス【祝福された者】
- 第13曲 アニュス・デイ【神の小羊】
- 第14曲 ルックス・エテルナ【永遠の光】
末尾の方に素晴らしい合唱動画を一枚貼っておきましたので、あまりよくご存じない方はその心洗われる厳かな雰囲気をぜひ一度味わってみて下さいませ。
ほんの 1 時間ほどございますが…(苦笑)
「レクイエム」の作曲依頼は誰がした? その目的は?
長年《モーツァルト》の【レクイエム】が不可解なものとして気味悪がられてきたその大元とされるのは、《ゲオルク・ニコラウス・ニッセン》なる男の著した《モーツァルト》の伝記。
数ある中で最も古い《モーツァルト》の伝記とされているもので、著者は元デンマーク外交官 & 《モーツァルト》の未亡人《コンスタンツェ》の再婚相手でもある人物です。(上画像参照)
その伝記によれば、《モーツァルト》は死の直前ある知人に一通の書簡を送り、その中で “自身の死が迫っていること” や “見知らぬ男に催促されて自分自身のために【レクイエム】を作曲していること” などが記されているとされており、以下がその文面とされているものを一部抜粋したもの。(Wikipedia より)
上書簡における “追い払えぬ見知らぬ男” がまさに《モーツァルト》の【レクイエム】を長年不気味なものに色付けてきたわけですが、自筆の書簡が失われているなど様々な背景からその真偽のほどは怪しいともされています。
また何より、1964 年にはその “見知らぬ男” の名とともに作曲を依頼した者の名が判明したことによって、それまで “謎” とされてきたその真相は一気に解明されるに至りました。
謎の真相ここに解明!【レクイエム】の依頼主は田舎の伯爵!
【レクイエム】の作曲を依頼したのは田舎の領主 & アマチュア音楽家の《フランツ・フォン・ヴァルゼック伯爵》なる人物だそうで、なんでも彼は、高額の報酬を提示して有名な作曲家に匿名で作品を作らせ、買い取ったそれを書き写したうえ自身の名で発表する、というキタナイ行為をなさっていた方なんだそうです。
本件では “若くして他界した自身の妻を追悼” するのがその利用目的だったらしく、長年不気味な伝説に包まれてきた《モーツァルト》の【レクイエム】も、いざ明らかとなってみれば何ら不思議でも何でもない単純な背景がその裏に隠されていただけのことでした。
《モーツァルト》は《サリエリ》に殺された ?? 《サリエリ》の実際の人物像は?
アカデミー賞 8 部門やゴールデングローブ賞など多数受賞した《モーツァルト》を描いた映画【アマデウス】(1984 年)。
その作中において、《サリエリ》にレクイエム第 7 曲を口述筆記させる《モーツァルト》の作曲シーンがあるが、これは史実ではなくフィクションであり、《サリエリ》と【レクイエム】には何らの関わりもない。Wikipedia
…ともありますが、映画【アマデウス】では主役の《モーツァルト》以上ともいえる強烈な存在感を放っていた《サリエリ》。
劇中ではかなり感じの悪い役回りでしたが、どうやら当時実在した彼とはかなりかけ離れている様子。
てことで、その名誉のためにも《アントニオ・サリエリ》なる人物の “実像” とされているものを以下簡単にご紹介しておきましょう。
《ベートーヴェン》や《シューベルト》らを育てた名教育家でもあった。
《サリエリ》に関する事柄で最も有名なのは《モーツァルト》と対立していたという噂であり、1820 年代のウィーンでは、《サリエリ》が《モーツァルト》から盗作したり、毒殺しようとしたとする噂が大きく広まったが、これらは何ひとつ立証されてはいない。
また、映画【アマデウス】などで描かれているような、彼が精神病院で余生を送ったり、《モーツァルト》を死に追いやったと自ら告白する場面はそうした噂を元に作られたフィクションで、事実とは大きく異なる。
実際彼は死の直前まで入院はしていたが、それは痛風と視力低下が元で起こった怪我の治療の為であり精神病などではなかった。
《サリエリ》は身に覚えのない噂に大きく心を痛め、弟子の一人にわざわざ自身の無実を語った所、かえってこれが疑念を呼び、その弟子の日記に『師が《モーツァルト》を毒殺したに違いない』などと書かれてしまう結果となってしまった。
実際の彼は慈善活動にも熱心で、弟子からは一切謝礼を取らず、才能のある弟子や生活に困る弟子には支援を惜しまなかった。
職を失って困窮する音楽家やその遺族の為に互助会を組織し、慈善コンサートを毎年開催し、有力貴族に困窮者へ支援を願い出る手紙を書くなどもしている。
また、《モーツァルト》のミサ曲をたびたび演奏し、《モーツァルト》の才能を認めて親交を持っていたことも明らかとなっている。
晩年は亡くなる 1 年半ほど前から認知症に苦しみ、1825 年、ウィーンにて死去。
享年 74 歳。
映画【アマデウス】の裏話 急遽抜擢の《サリエリ》役
余談ながら、映画【アマデウス】の超感じ悪い《アントニオ・サリエリ》と、映画【薔薇の名前】の超残虐な異端審問官《ベルナール・ギー》が頭の中で変にダブるなぁ~と思っていたら、それもそのはず、両者は同じ俳優さん《F・マーリー・エイブラハム》という方が演じていました。(上写真)
きっとこうした役にドンピシャな俳優さんなんでしょうね。
なんでも映画【アマデウス】においては本来別の役柄に決まっていたそうですが、台本の読み合わせでたまたま《サリエリ》役を代演したところ、あまりの演技力の高さから急遽監督に《サリエリ》役を任されたんだそうです。
ちなみに【薔薇の名前】の異端審問官《ベルナール・ギー》も、過去の “ホンモノ” は映画とは違い拷問否定派のかなり温和な人物だったようで、生涯裁いた 600 件以上もの異端審問の中で “火あぶり刑” に処したのは僅か 40 人程度なんだそうな。
未完成の【レクイエム】はその後どうなった ?
《モーツァルト》の死後、貧窮の中に残された妻《コンスタンツェ》は、収入を得る手段として【レクイエム】を完成させることを望んだ。
作業は《モーツァルト》の弟子らに委ねられ、その一人《ジュースマイヤー》が改めて一から補筆を行って最終的に完成された。
完成した総譜は作品を受け取りに来た使者を通じて《ヴァルゼック伯爵》に引き渡され、《コンスタンツェ》は作曲料の残りを得た。
1793 年 12 月、伯爵は自分の作品であるとしてこの曲を演奏したが、《コンスタンツェ》は手元に残した写譜から亡夫の作品として出版。
このため後に伯爵が抗議するという一幕もあったというが、《モーツァルト》の名声はすでに高まりつつあり、この作品は《モーツァルト》の作品として広く認知されるようになった。参考:Wikipedia
《モーツァルト》の妻《コンスタンツェ》は実際悪妻だった?
とりあえず “悪妻” とされている根拠のいくつかと、それに対する反論を掲載いたしておきますので奥様のお顔でもご想像しながら是非読み比べてみて下さい。
天才作曲家《モーツァルト》ってどんな人? 仰天のその生涯&実像とは
Wikipedia より
従妹(いとこ)と初体験を済ませ、やがては片思い相手の妹を妻にめとり次から次へと子を産ませ続けた《モーツァルト》。
休む間もなく妊娠出産を繰り返した妻《コンスタンツェ》は結婚 10 年後にはすでに体がボロボロになっていたそうな。
『英雄色を好む』とは言いますが、やはり《モーツァルト》も例に違わず、ドスケベ & 幼少時からのズバ抜けた音楽的才能は誰もが認めるものだったようです。
てなわけで、今に伝わる彼の有名なエピソードや人となりを以下にザッと記しておきました。
順番ムチャクチャ、時系列には従っておりませんので悪しからず。
ビックリ仰天 !《モーツァルト》の今に伝わる実像 & エピソード
❶ 3 歳でチェンバロ(上画像)を弾き始め 5 歳の時には作曲していた
❷ 6 歳の時に一つ年上のオーストリア皇女(のちのフランス王妃《マリーアントワネット》)にプロポーズ
❸ 7 歳の時の演奏を聴いた《ゲーテ》が、絵画の《ラファエロ》・文学の《シェイクスピア》に並ぶ逸材、と絶賛
❹ バチカン宮殿の「システィーナ礼拝堂」で “門外不出の秘曲” とされていた【ミゼレーレ】を聴き、暗譜で書き記した
➎ 「フリーメーソン」(秘密結社の会員)であり、メイソン仲間から多額の借金をしていた
❻ 作品総数は 900 曲以上
❼ 並外れた記憶力の持ち主で、「下書きをしない天才」と言われた
❽ 頭の中で作曲し終えた楽章を書きながら次の楽章を頭の中で作曲できた(某交響曲にて)
❾ 死後すぐに「デスマスク」が作られたが、なぜか行方不明となり未だ未発見
❿ 死後の検死による身長は 163㎝
⓫ エロ話が大好きで、妻《コンスタンツェ》に宛てたわいせつな手紙が多く残されている
⓬ 手紙では最大 5 か国語を使い分けていた
⓭ 【俺の尻をなめろ】なる曲も作曲
⓮ 依頼主の貴族に対し、完成した楽譜を自宅の床一面に並べ、それを拾わせた
⓯ ボウリング・ビリヤード・高価な衣装・豪華な住居 が大好きで、晩年は借金地獄
⓰ フルートが嫌い(当時のフルートは楽器としての性能が低かったため、とする説が有力)
《モーツァルト》の自己分析
発明王《エジソン》の名言に『天才とは1%のひらめきと 99 %の努力である』とありますが、幼い頃より “天才天才” と言われ続けてきた《モーツァルト》も、やはり自身の才能を “並外れた努力をしたがゆえ” のことだと、死去する 3 年前に書かれた手紙(下に掲載)の中にて語っています。
“努力” と言う言葉が大嫌いな自分は一生 “天才” などと呼ばれることはなさそうですね。(苦笑)
『ヨーロッパ中の宮廷を周遊していた小さな男の子だったころから特別な才能の持ち主だと同じことを言われ続けています。目隠しをされて演奏させられたこともありますし、ありとあらゆる試験をやらされました。こうしたことは長い時間かけて練習すれば簡単にできるようになります。僕が幸運に恵まれていることは認めますが、作曲はまるっきり別の問題です。長年にわたって僕ほど作曲に長い時間と膨大な思考を注いできた人は他には一人もいません。有名な巨匠の作品はすべて念入りに研究しました。作曲家であるということは精力的な思考と何時間にも及ぶ努力を意味するのです』
by ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
その他
【合唱動画 レクイエム】 心洗われる鎮魂歌を襟を正してじっくり拝聴
〖Mozart – Requiem〗
【オススメ映画】アマデウス
大作名作ながらほとんどの VOD(動画配信サービス)で提供されていないかなり貴重な映画【アマデウス】。
そんな中〖TSUTAYA DISCAS〗ではどうやら無料レンタル可能なようなので、未だご覧になられたことのない方はぜひこの機会にオススメいたします。(2023 年 5 月時点)
ちなみに〖Amazon プライムビデオ〗では 750 円にて視聴可能です。(2023 年 5 月時点)
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【参考動画】 映画予告
〖『アマデウス(Amadeus)』 予告編 Trailer 1984.〗(英語版)
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