【はじめに】

その昔「トロンボーン」なるものを吹いていたこともあって、“楽器” というものがいかにお高いものかは重々承知しておりますが、ワタクシごときの一般庶民がどう頑張っても一生手にすることができぬ、あらゆる楽器の頂点に君臨するものがあります。
【ストラディバリウス】です。
“本場イタリア製名匠手作りの最高級バイオリン” で、本数も限られており、当然に街中の楽器屋さんやネットショップでホイホイ買えるものではございません。
手に入れたくば、サザビーズやクリスティーズなどのオークションで落札するか、現所有者より直接買い受けるより他なく、そしてそのためには日本円で数千万、あるいは数億といった大金が必要とされるという、ある意味 “骨董品” としても有名なシロモノです。
…とまぁ、ここまではおそらく多くの方が知るところかと思われますが、そのほとんどの方は “高い” 以外のことについてはあまりご存知ないのではないでしょうか。
金額に見合った本当に素晴らしい音色なのかどうなのかを検証する “ブラインドテスト” = “目隠し実験” なんかも度々行われているそうで、その結果なんかも気になるところ。
てなわけで今回は、この世界一の高級バイオリン、【ストラディバリウス】のオークション落札額、+音色・特徴・歴史・日本人所有者 といった “値段” 以外の部分についても詳しくご紹介。
なお、バイオリン以外の弦楽器(チェロ・ヴィオラ・ギター・ハープ・マンドリン)にも同じ製作者による “【ストラディバリウス】” と呼ばれるものが存在しますが、当記事では “バイオリン” に主眼を置き記しております点、予めご了承を。
世界一の最高級バイオリン【ストラディバリウス】のアレコレ★

【ストラディバリウス】を語る前に、“バイオリン” なる楽器の歴史や基本をご存知ない方は軽く予備知識として知っておいた方がよろしいかとも思われますので、まずはそれらをサクッと記しておきましょう。
さすがにバイオリンそのものをまったくご存知ない方はいらっしゃらないとは思いますが、もしご存知なければ…
恐縮ながら、この場にてご退出をオススメいたします。
「バイオリン」の歴史 & 基本知識



「バイオリン」の起源は、時期不明、中東を中心にイスラム圏で広く使用された「ラバーブ」(【画像 1】)にあると考えられている。
やがて「ラバーブ」は中世にヨーロッパへと伝えられ「レベック」(【画像 2】)と呼ばれる楽器へと進化し、それがその後 “立てて弾くタイプ” のものと “抱えて弾くタイプ” のものに分かれ、その前者代表格が「コントラバス」や「チェロ」(【画像 3】)、後者代表格が「ヴィオラ」(【画像 3】)や「バイオリン」というわけである。
つまりは、時代とともに最も大きいサイズの「コントラバス」(最低音域)から最も小さいサイズの「バイオリン」(最高音域)までズラリ勢揃いしたことによって、より多くの音域(バス・テノール・アルト・ソプラノ)がカバーできるようになった。
世に「バイオリン」が登場したのは、各地に残る絵画や文献、その他《レオナルド・ダ・ヴィンチ》の手稿に記されたそれっぽい設計図などから 16 世紀初頭と考えられているが、現存する最古の「バイオリン」は 16 世紀後半のもので、それ以前の現物は今のところ発見されていない。
やがて「バイオリン」の製作は 17 世紀から 18 世紀にかけて最盛期を迎え、そのメッカとなったイタリア北部の都市クレモナにおいては《ストラディバリ》を含む著名な製作者が続出した。
18 世紀以降製作の「バイオリン」は、演奏される曲の音域が増加するのに伴って細部のつくりや寸法などが大きく変化していき、また、【ストラディバリウス】を含む 18 世紀以前に作られた「バイオリン」であっても現存するものは歴史のどこかの時点で同様に改造されたものが多いとされる。
古い様式の「バイオリン」、あるいは新しい「バイオリン」であってもあえて古い様式で作られたものは現在「バロック・バイオリン」と呼ばれているが、これとは別に、特にイタリアにおける著名な製作者が作った「バイオリン」を、製作時期によって「オールド(1700 年代後期まで)」「モダン(1800 年位から 1950 年位まで)」「コンテンポラリー(1950 年位以降)」と分類して呼ぶこともある。参考:Wikipedia
【ストラディバリウス】の製作者や現存本数は?


【ストラディバリウス】、略して【ストラド】とは、当時のバイオリン製作のメッカ、イタリア北部のクレモナで 1680 年に工房を構えた《アントニオ・ストラディバリ》と、その長男《フランチェスコ・ストラディバリ》& 次男《オモボノ・ストラディバリ》の 3 人が、多くの弟子たちとともに製作したすべての弦楽器の総称で、当然ながら父《アントニオ》の製作のものが最も有名とされます。
ちなみに、【ストラディバリウス】と言えば “楽器” 、《ストラディバリ》と言えば “製作者” を意味する呼称なのでご混同なきよう。
父子 3 人+弟子たちで製作した楽器は総計約 1300 挺(ちょう)とも言われ、それが事実ならば通算 57 年、単純計算で年に約 20 挺ほどが生産されていたことになり、全てが手作りの当時としてはかなりのハイペースだったにちがいありません。
(環境の整った現代でも 1 人で年 10 本も作れれば多い方なんだとか)
が、1737 年に父《アントニオ》が他界して以降は後継者が完全に途絶え、楽器【ストラディバリウス】も世界中に約 600 挺ほどしか現存していないそうです。
(内約 520 挺がバイオリン)

ハープは世界に1台⁉ “バイオリン以外” の【ストラディバリウス】の現存本数は?

謎多き父《アントニオ・ストラディバリ》& その息子たち

誕生年月日が複数説あったり、亡き後の遺骸がある時期以降行方不明になったり、という父《アントニオ》もたいがい “謎多き男” ですが、ともに楽器製作をしていたとされる長男 & 次男はさらに謎。
三男の《パオロ・ストラディバリ》なる男が、父や兄たちから相続した楽器製作道具をどこぞに売り払ったことによって、一族とバイオリン製作との関係は完全に途絶えたとされていますが、父亡きあと三男が相続するまでの期間、二人の兄がどこでどう過ごしていたかについての詳しい情報は探すも見つけることができませんでした。
ただ、次男《オモボノ・ストラディバリ》についての簡単な記載が他サイト様にありましたので、参考がてら概要を以下に記しておきます。
《オモボノ》は 1690 年代後半に一時的にクレモナを離れナポリで過ごしていたようであるが、1700 年頃には、クレモナに戻って再び楽器製作に携わるようになった。
その作風は 1730 年代以降の父《アントニオ》と共通する部分も多く、晩年の「ストラディヴァリ工房」においては、重要な働きを果たしていたと推察される。
《オモボノ》は、父《アントニオ》の使用した道具類を使って製作したと考えられ、作品もそれなりに高く評価はされているが、仕上がりにおいて父親の完璧さには遠く及ばない。参考サイト:BUNKYO GAKKI
“オークション落札額” に見る父《アントニオ・ストラディバリ》のスゴさ

期待?の長男《フランチェスコ》はというと、次男《オモボノ》よりもさらにデキが悪かったようで、それについては “各作品のオークションでの落札額” が掲載された以下サイト様の記事が参考になりましょう。
なんと二人の息子よりも一番弟子《カルロ・ベルゴンツィ》のバイオリンの方が遥かに高値をつけており、長男次男ともあの世でまちがいなく父ちゃんに叱られてるはず。
(長男=1000 万円 / 次男=4100 万円 / 一番弟子=1 億 4000 万円)
驚愕のオークション史上最高落札額!
その売却額は日本財団の「地域伝統芸能復興基金」に全額寄付されました。
詳しくはコチラ〖日本音楽財団 HP〗にて。
なお、2014 年のサザビーズオークションで、最低落札価格 “46 億円” という超ド級の値がついた『マクドナルド』(1719 年《アントニオ》製作のヴィオラ)なるものもあるそうですが、こちらは買い手がつかずにあえなく終了。(参考記事:〖AFPBB News〗)
が、いまだ売却等なされていなければこの金額で手に入れることは可能だそうです。
なんと日本人所有者の一人はあの《前澤友作》氏⁉

ちなみに、上『レディ・ブラント』以前の最高落札価格は 2006 年に約 4 億円で落とされた『ハンマ』(1717 年《アントニオ》製作のバイオリン)なるものだそうですが、なんと落札者はあの “お金配りオジサン” で有名な ZOZO 創設者の《前澤友作(まえざわゆうさく)》氏だとか。(写真参照)
【参考】
〖東京ストラディヴァリウス フェスティバル 2018 実行委員会〗
【ストラディバリウス】の音色って実際イイ音なの ?

簡単に再現できぬ謎多き音色 & 著名なバイオリニスト達がこぞって手にしたがる名器【ストラディバリウス】。
オークションで 数千万円 ~ 数億円 もの値がつくくらいだからそこらのバイオリンとは比にならぬ、さぞかしイイ音色を響かせるものかと思いきや、意外にもそうではない様子。
と言うのは、『本当にイイ音なのか?』を確かめるための手の込んだ検証実験=ブラインドテスト(モノがバレぬよう “視覚” や “嗅覚” などを遮断した目隠し実験)が何度か実施され、それらにおける悲しい結果が大々的に公表されたことによって、多くの人たちに『ダメダメじゃん!』とのレッテルを貼られてしまったのです。
が、バイオリンに限らず、古来からの楽器は現代の電子楽器とはちがって、“弾き手” や “吹き手” の技術やクセ、また、使い込まれているかどうかなどによっても音色は大きく変わるので、
『単純な比較実験のみで良いだの悪いだのを判断するのは妥当ではない』
などといった反論もあり、ネット上でもこの実験の賛否について音楽家や評論家たちがこぞって自身の持論をぶちまけております。
ワタクシ個人もこの実験には異議ありで、自身の吹いていた「トロンボーン」も個人個人の “唇の厚さ” なんかで相性の良し悪しがあり、また、その日の気温や体調やメンテナンスの仕方などによっても女性のごとくゴキゲン(音色)がコロコロ変わるので、単純に答えの出せる問題ではないのでは、と思っています。
とりあえず、最も有名であろう検証実験 & その結果は以下のごとし。
音色の検証実験 & その結果(一例)
フランスの《クラウディア・フリッツ》教授率いるチームは、2012 年に実施された【ストラディバリウス】複数本とその他のバイオリン複数本をゴチャ混ぜにした “ブラインドテスト” の結果を、国際学術誌「米国科学アカデミー会報」に発表し、《フリッツ》教授は
『大半の人たちはストラディバリウスと新しいバイオリンとの音を区別できなかったし、新しいバイオリンの音がより豊かで聞きやすかったと答えた』
と語った。
実験は、フランス・パリにある 300 席規模の音楽ホールと、米・ニューヨークにある 860 席規模の音楽ホールの 2 か所に渡って行われ、前者は聴衆 55 人、後者は聴衆 82 人がその対象。
聴衆は音楽に明るい者ばかりで、ランダムに選ばれたバイオリン何本かを聞かせた後、どの楽器の音が “イイ音” に聞こえたかが項目別に調査された。(下に参考動画あり)
演奏は世界的バイオリニストらによって 独奏・ピアノ伴奏付き・オーケストラ伴奏付き といった複数のパターンでなされ、演奏者たちも聴衆と同じく楽器が区別できないよう眼帯を着用するなどした。
それらの結果、演奏者・聴衆の双方から【ストラディバリウス】よりも新しいバイオリンの方が “イイ音” だと評価された。参考:東亜日報記事(2017 年 9 月)
【参考動画】(上実験の一部始終)
〖2012 – The Paris Double-Blind Violin Experiment〗(フランス語・英語)
“2012 年 検証実験” に対する反論(一例)
1000 本を超える【ストラド(ストラディバリウス)】のクオリティが全て同じであるはずはありません。
さらに、長い期間どのように使われ、メンテナンスされてきたかによっても、現在の楽器の状態は大きく左右されます。
実験では 6 本の【ストラド】が使われたということですが、良い【ストラド】は演奏家が実際に使っていることが多いでしょうから、6 本もまとめて集められた楽器は果たしてどんな楽器だったのでしょうか。
私の数少ない経験でも、【ストラド】には驚くほどの個体差があることは明白で、どのような経歴で、現在どんな形で使われているか(保存されているか)を無視した【ストラド】vs「現代バイオリン」に一体何の意味があるのか、と疑問を感じます。
楽器の調整をあれこれやってみるとわかるのですが、調整によって楽器の状態は驚くほど変わります。
そして、古い楽器ほどベストの調整をするのが難しいのです。
弾き手の好みによっても、弦によっても、バランスは驚くほど変わります。
もちろん、どんな曲を弾くかによっても答えは異なる可能性があります。
実験自体は真剣にやられているのでしょうが、まだまだ穴が多すぎると思います。参考:柏木真樹 音楽スタジオ Blog
【ストラディバリウス】の特徴や音色を動画に見る
〖ストラディヴァリを科学する -前編-〗
〖ストラディヴァリを科学する -後編-〗
今注目のストラディバリウス美人奏者《髙木凜々子》氏

【参考動画】
〖【髙木凜々子 ヴァイオリンチャンネル】ストラディバリウスで基礎練習(音階)をお届けします。〗
〖👼髙木凜々子様降臨👼見る前から神回認定ですこれは〗
天才バイオリニスト 《千住真理子》氏所有「デュランティ」の素晴らしい音色で最後を飾る★

【ストラディバリウス】を所持するヴァイオリニストは、そのほとんどがどこぞの団体より “貸与” されて使用していますが、“自己所有” していらっしゃる世界でも数少ないお一人が、小さい頃には「天才少女」と呼ばれていた日本人ヴァイオリニストの《千住真理子(せんじゅまりこ)》お姉さま。
というわけで、2 億だの 3 億だのと噂されている彼女所有の【ストラディバリウス】=「デュランティ」(1716 年・《アントニオ》製作のバイオリン)の素晴らしい音色を最後のシメにお聞かせいたしましょう。
よく聞く名曲ばかりで、抜群のテクニックとその上質な音色におそらくは誰もが魅了されるはず。
ちなみにこの「デュランティ」、最初に所有していたどこぞの貴族から、のちスイスの富豪の手に渡ったものだそうですが、作られてから約 300 年もの間一度も弾かれたことはなかったらしく、彼女の元に届いたのはなんと実質新品。
?億に見合うだけの価値あるバイオリンかどうかはあなた自身の目と耳でご判断下さいませ。
〖千住真理子 クリスマスディナーコンサート 2021〗




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