【はじめに】
みなさんよくご存知であろう「小倉百人一首」。
子供時分に “坊主めくり” などで遊ばれた方も多いのではないでしょうか ?
“歌がるた” などとして庶民の遊び道具になったのは複製技術が一般化した江戸時代以降のことだそうで、元は鎌倉時代に藤原定家(上画像参照)があるお方から依頼を受けて色紙にしたためた秀歌撰なんだとか。
今回は何となく思いついたままに「小倉百人一首」の歌番号 1 番 ~ 100 番までの全和歌を現代語訳とともに読み札画像とセットでまとめてみました。
お暇潰し等、何らかのお役にでもたてれば幸いです。
また、昔よく遊んだ “坊主めくり” のルールなんかも年月の経過とともにぼんやりとしか覚えてらっしゃらない方もきっと多いはず。
てなわけで、ルールがよく分かる動画も最後に貼り付けておきました。
地域や家々などによって若干の違いはあるでしょうが、大まかな遊び方は同じようなものかと思われます。
動画で記憶を取り戻し、久々童心に帰ってお子様やお孫様たちとワーワーキャーキャー楽しまれてみてはいかがでしょうか。
尚、各歌人の詳細がお知りになりたければ、読み札画像の下の “Wikipedia” をクリックすれば【ウィキペディア】へジャンプできますので併せてそちらもご活用下さい。
- 【小倉百人一首】 全和歌 & 現代語訳(読み札画像付き)
- 【1】天智天皇(あきのたの~)
- 【2】持統天皇(はるすぎて~)
- 【3】柿本人麻呂(あしびきの~)
- 【4】山部赤人(たごのうらに~)
- 【5】猿丸太夫(おくやまに~)
- 【6】中納言家持(かささぎの~)
- 【7】安倍仲麻呂(あまのはら~)
- 【8】喜撰法師(わがいほは~)
- 【9】小野小町(はなのいろは~)
- 【10】蝉丸(これやこの~)
- 【11】参議篁(わたのはら~)
- 【12】僧正遍昭(あまつかぜ~)
- 【13】陽成院(つくばねの~)
- 【14】河原左大臣(みちのくの~)
- 【15】光孝天皇(きみがため~)
- 【16】中納言行平(たちわかれ~)
- 【17】在原業平朝臣(ちはやぶる~)
- 【18】藤原敏行朝臣(すみのえの~)
- 【19】伊勢(なにはがた~)
- 【20】元良親王(わびぬれば~)
- 【21】素性法師(いまこむと~)
- 【22】文屋康秀(ふくからに~)
- 【23】大江千里(つきみれば~)
- 【24】菅家(このたびは~)
- 【25】三条右大臣(なにしおはば~)
- 【26】貞信公(おぐらやま~)
- 【27】中納言兼輔(みかのはら~)
- 【28】源宗干朝臣(やまざとは~)
- 【29】凡河内躬恒(こころあてに~)
- 【30】壬生忠岑(ありあけの~)
- 【31】坂上是則(あさぼらけ~)
- 【32】春道列樹(やまかわに~)
- 【33】紀友則(ひさかたの~)
- 【34】藤原興風(たれをかも~)
- 【35】紀貫之(ひとはいさ~)
- 【36】清原深養父(なつのよは~)
- 【37】文屋朝康(しらつゆに~)
- 【38】右近(わすらるる~)
- 【39】参議等(あさぢふの~)
- 【40】平兼盛(しのぶれど~)
- 【41】壬生忠見(こいすてふ~)
- 【42】清原元輔(ちぎりきな~)
- 【43】中納言敦忠(あひみての~)
- 【44】中納言朝忠(あふことの~)
- 【45】謙徳公(あはれとも~)
- 【46】曾禰好忠(ゆらのとを~)
- 【47】恵慶法師(やえむぐら~)
- 【48】源重之(かぜをいたみ~)
- 【49】大中臣能宣朝臣(みかきもり~)
- 【50】藤原義孝(きみがため~)
- 【51】藤原実方朝臣(かくとだに~)
- 【52】藤原道信朝臣(あけぬれば~)
- 【53】右大将道綱母(なげきつつ~)
- 【54】儀同三司母(わすれじの~)
- 【55】大納言公任(たきのおとは~)
- 【56】和泉式部(あらざらむ~)
- 【57】紫式部(めぐりあひて~)
- 【58】大弐三位(ありまやま~)
- 【59】赤染衛門(やすらはで~)
- 【60】小式部内侍(おおえやま~)
- 【61】伊勢大輔(いにしへの~)
- 【62】清少納言(よをこめて~)
- 【63】左京大夫道雅(いまはただ~)
- 【64】中納言定頼(あさぼらけ~)
- 【65】相模(うらみわび~)
- 【66】大僧正行尊(もろともに~)
- 【67】周防内侍(はるのよの~)
- 【68】三条院(こころにも~)
- 【69】能因法師(あらしふく~)
- 【70】良暹法師(さびしさに~)
- 【71】大納言経信(ゆうされば~)
- 【72】祐子内親王家紀伊(おとにきく~)
- 【73】権中納言匡房(たかさごの~)
- 【74】源俊頼朝臣(うかりける~)
- 【75】藤原基俊(ちぎりおきし~)
- 【76】法性寺(わたのはら~)
- 【77】崇徳院(せをはやみ~)
- 【78】源兼昌(あわじしま~)
- 【79】左京大夫顕輔(あきかぜに~)
- 【80】待賢門院堀川(ながからむ~)
- 【81】後徳大寺左大臣(ほととぎす~)
- 【82】道因法師(おもひわび~)
- 【83】皇太后宮大夫俊成(よのなかよ~)
- 【84】藤原清輔朝臣(ながらへば~)
- 【85】俊恵法師(よもすがら~)
- 【86】西行法師(なげけとて~)
- 【87】寂蓮法師(むらさめの~)
- 【88】皇嘉門院別当(なにはえの~)
- 【89】式子内親王(たまのおよ~)
- 【90】殷富門院大輔(みせばやな~)
- 【91】後京極摂政前太政大臣(きりぎりす~)
- 【92】二条院讃岐(わがそでは~)
- 【93】鎌倉右大臣(よのなかは~)
- 【94】参議雅経(みよしのの~)
- 【95】前大僧正慈円(おほけなく~)
- 【96】入道前太政大臣(はなさそふ~)
- 【97】権中納言定家(こぬひとを~)
- 【98】従二位家隆(かぜそよぐ~)
- 【99】後鳥羽院(ひともおし~)
- 【100】順徳院(ももしきや~)
- 【小倉百人一首】のご購入に
- 【おまけ】 動画で見る “坊主めくり” の遊び方(一例)
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【小倉百人一首】 全和歌 & 現代語訳(読み札画像付き)
【1】天智天皇(あきのたの~)
秋の田の
仮庵(かりほ)の庵(いほ)の
苫(とま)をあらみ
わが衣手(ころもで)は
露にぬれつつ
【現代語訳】
秋の田圃のほとりにある仮小屋の、屋根を葺いた苫の編み目が粗いので、私の衣の袖は露に濡れていくばかりだ。
【2】持統天皇(はるすぎて~)
春すぎて
夏来にけらし
白妙(しろたへ)の
衣ほすてふ
天の香具山(かぐやま)
【現代語訳】
いつの間にか、春が過ぎて夏がやってきたようですね。
香具山には、あんなにたくさんのまっ白な着物が干されているのですから。
【3】柿本人麻呂(あしびきの~)
あしびきの
山鳥の尾の
しだり尾の
長々し夜を
ひとりかも寝む
【現代語訳】
山鳥の尾の、長く長く垂れ下がった尾っぽのように長い夜を想い人にも逢えないで独りさびしく寝ることだろうか。
【4】山部赤人(たごのうらに~)
田子の浦に
うち出でてみれば
白妙(しろたへ)の
富士の高嶺(たかね)に
雪は降りつつ
【現代語訳】
田子の浦に出かけて、遙かにふり仰いで見ると、白い布をかぶったように真っ白い富士の高い嶺が見え、そこに雪が降り積もっている。
【5】猿丸太夫(おくやまに~)
奥山に
紅葉踏みわけ
鳴く鹿の
声きく時ぞ
秋は悲しき
【現代語訳】
人里離れた奥山で、散り敷かれた紅葉を踏み分けながら、雌鹿が恋しいと鳴いている雄の鹿の声を聞くときこそ、いよいよ秋は悲しいものだと感じられる。
【6】中納言家持(かささぎの~)
かささぎの
渡せる橋に
おく霜の
白きを見れば
夜ぞ更けにける
【現代語訳】
七夕の日、牽牛と織姫を逢わせるために、かささぎが翼を連ねて渡したという橋…
天の川にちらばる霜のようにさえざえとした星の群れの白さを見ていると、夜もふけたのだなあと感じてしまうよ。
【7】安倍仲麻呂(あまのはら~)
天の原
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
出でし月かも
【現代語訳】
天を仰いではるか遠くを眺めれば、月が昇っている。
あの月は奈良の春日にある、三笠山に昇っていたのと同じ月なのだなあ。
【8】喜撰法師(わがいほは~)
わが庵(いほ)は
都のたつみ
しかぞすむ
世をうぢ山と
人はいふなり
【現代語訳】
私の庵は都の東南にあって、このように(平穏に)暮らしているというのに、世を憂いて逃れ住んでいる宇治(憂し)山だと、世の人は言っているようだ。
【9】小野小町(はなのいろは~)
花の色は
うつりにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに
【現代語訳】
桜の花の色は、むなしく衰え色あせてしまった、春の長雨が降っている間に。
ちょうど私の美貌が衰えたように、恋や世間のもろもろのことに思い悩んでいるうちに。
【10】蝉丸(これやこの~)
これやこの
行くも帰るも
別れては
知るも知らぬも
逢坂(あふさか)の関
【現代語訳】
これがあの、京から出て行く人も帰る人も、知り合いも知らない他人も、皆ここで別れ、そしてここで出会うと言う有名な逢坂の関なのだなあ。
【11】参議篁(わたのはら~)
わたの原
八十島(やそしま)かけて
漕(こ)ぎ出でぬと
人には告げよ
海人(あま)の釣り舟
【現代語訳】
広い海を、たくさんの島々を目指して漕ぎ出して行ったよ、と都にいる人々には告げてくれ、漁師の釣り船よ。
【12】僧正遍昭(あまつかぜ~)
天津風(あまつかぜ)
雲の通ひ路(かよひじ)
吹き閉ぢよ
をとめの姿
しばしとどめむ
【現代語訳】
天を吹く風よ、天女たちが帰っていく雲の中の通り道を吹き閉ざしてくれ。
乙女たちの美しい舞姿を、もうしばらく地上に留めておきたいのだ。
【13】陽成院(つくばねの~)
筑波嶺(つくばね)の
峰より落つる
男女川(みなのがわ)
恋ぞつもりて
淵となりぬる
【現代語訳】
筑波のいただきから流れ落ちてくる男女川(みなのがわ)が、最初は細々とした流れから次第に水かさを増して深い淵となるように、恋心も次第につのって今では淵のように深くなっている。
【14】河原左大臣(みちのくの~)
陸奥(みちのく)の
しのぶもぢずり
誰(たれ)ゆゑに
乱れそめにし
われならなくに
【現代語訳】
陸奥で織られる「しのぶもじずり」の摺り衣の模様のように、乱れる私の心。
いったい誰のせいでしょう。
私のせいではないのに(あなたのせいです)。
【15】光孝天皇(きみがため~)
君がため
春の野に出でて
若菜摘む
我が衣手に
雪は降りつつ
【現代語訳】
あなたにさしあげるため、春の野原に出かけて若菜を摘んでいる私の着物の袖に、雪がしきりに降りかかってくる。
【16】中納言行平(たちわかれ~)
たち別れ
いなばの山の
峰に生ふる
まつとし聞かば
今帰り来む
【現代語訳】
お別れして、因幡の国へ行く私ですが、因幡の稲羽山の峰に生えている松の木のように、私の帰りを待つと聞いたなら、すぐに戻ってまいりましょう。
【17】在原業平朝臣(ちはやぶる~)
千早(ちはや)ぶる
神代(かみよ)もきかず
龍田川(たつたがは)
からくれなゐに
水くくるとは
【現代語訳】
さまざまな不思議なことが起こっていたという神代の昔でさえも、こんなことは聞いたことがない。
龍田川が(一面に紅葉が浮いて)真っ赤な紅色に、水をしぼり染めにしているとは。
【18】藤原敏行朝臣(すみのえの~)
住の江の
岸による波
よるさへや
夢の通ひ路
人目よくらむ
【現代語訳】
住之江の岸に寄せる波の「寄る」という言葉ではないけれど、夜でさえ、夢の中で私のもとへ通う道でさえ、どうしてあなたはこんなに人目を避けて出てきてくれないのでしょうか。
【19】伊勢(なにはがた~)
難波(なには)潟
みじかき芦の
ふしの間も
逢はでこの世を
過ぐしてよとや
【現代語訳】
難波潟の芦の、節と節との短さのように、ほんの短い間も逢わずに、一生を過ごしてしまえと、あなたは言うのでしょうか。
【20】元良親王(わびぬれば~)
わびぬれば
今はた同じ
難波(なには)なる
みをつくしても
逢はむとぞ思ふ
【現代語訳】
これほど思い悩んでしまったのだから、今はどうなっても同じことだ。
難波の海に差してある澪漂ではないが、この身を滅ぼしてもあなたに逢いたいと思う。
【21】素性法師(いまこむと~)
今来むと
言ひしばかりに
長月の
有明の月を
待ち出(い)でつるかな
【現代語訳】
「今すぐに参ります」とあなたが言ったばかりに、9 月の夜長をひたすら眠らずに待っているうちに、夜明けに出る有明の月が出てきてしまいました。
【22】文屋康秀(ふくからに~)
吹くからに
秋の草木の
しをるれば
むべ山風を
嵐といふらむ
【現代語訳】
山から秋風が吹くと、たちまち秋の草木がしおれはじめる。
なるほど、だから山風のことを「嵐(荒らし)」と言うのだなあ。
【23】大江千里(つきみれば~)
月みれば
ちぢにものこそ
悲しけれ
わが身一つの
秋にはあらねど
【現代語訳】
月を見ると、あれこれきりもなく物事が悲しく思われる。
私一人だけに訪れた秋ではないのだけれど。
【24】菅家(このたびは~)
このたびは
幣(ぬさ)も取りあへず
手向(たむけ)山
紅葉(もみぢ)の錦
神のまにまに
【現代語訳】
今度の旅は急のことで、道祖神に捧げる幣(ぬさ)も用意することができませんでした。
手向けの山の紅葉を捧げるので、神よ御心のままにお受け取りください。
【25】三条右大臣(なにしおはば~)
名にし負(お)はば
逢坂山(あふさかやま)の
さねかづら
人に知られで
くるよしもがな
【現代語訳】
恋しい人に逢える「逢坂山」、一緒にひと夜を過ごせる「小寝葛(さねかずら)」。
その名前にそむかないならば、逢坂山のさねかずらをたぐり寄せるように、誰にも知られずあなたを連れ出す方法があればいいのに。
【26】貞信公(おぐらやま~)
小倉山
峰のもみぢ葉
心あらば
今ひとたびの
みゆき待たなむ
【現代語訳】
小倉山の峰の紅葉よ。
お前に人間の情がわかる心があるなら、もう一度天皇がおいでになる(行幸される)まで、散らずに待っていてくれないか。
【27】中納言兼輔(みかのはら~)
みかの原
わきて流るる
泉川(いづみがは)
いつ見きとてか
恋しかるらむ
【現代語訳】
みかの原から湧き出て、原を二分するようにして流れる泉川ではないが、いったいいつ逢ったといって、こんなに恋しいのだろうか。(一度も逢ったことがないのに)
【28】源宗干朝臣(やまざとは~)
山里は
冬ぞ寂しさ
まさりける
人目も草も
かれぬと思へば
【現代語訳】
山里は、ことさら冬に寂しさがつのるものだった。
人の訪れもなくなり、草木も枯れてしまうと思うから。
【29】凡河内躬恒(こころあてに~)
心あてに
折らばや折らむ
初霜の
おきまどはせる
白菊の花
【現代語訳】
もし手折(たお)るならば、あてずっぽうに折ってみようか。
真っ白な初霜が降りて見分けがつかなくなっているのだから、白菊の花と。
【30】壬生忠岑(ありあけの~)
有明の
つれなく見えし
別れより
暁(あかつき)ばかり
憂(う)きものはなし
【現代語訳】
有明の月は冷ややかでそっけなく見えた。
相手の女にも冷たく帰りをせかされた。
その時から私には、夜明け前の暁ほど憂鬱で辛く感じる時はないのだ。
【31】坂上是則(あさぼらけ~)
朝ぼらけ
有明の月と
みるまでに
吉野の里に
ふれる白雪
【現代語訳】
明け方、空がほのかに明るくなってきた頃、有明の月かと思うほど明るく、吉野の里に白々と雪が降っていることだよ。
【32】春道列樹(やまかわに~)
山川に
風のかけたる
しがらみは
流れもあへぬ
紅葉なりけり
【現代語訳】
山の中の川に、風が掛けた流れ止めの柵(しがらみ)がある。
それは、流れきれないでいる紅葉の集まりだったよ。
【33】紀友則(ひさかたの~)
ひさかたの
光のどけき
春の日に
静心(しづごころ)なく
花の散るらむ
【現代語訳】
こんなに日の光がのどかに射している春の日に、なぜ桜の花は落ち着かなげに散っているのだろうか。
【34】藤原興風(たれをかも~)
誰(たれ)をかも
しる人にせむ
高砂の
松もむかしの
友ならなくに
【現代語訳】
誰をいったい、親しい友人としようか。
(長寿で有名な)高砂の松も、昔からの友人ではないのに。
【35】紀貫之(ひとはいさ~)
人はいさ
心も知らず
ふるさとは
花ぞ昔の
香ににほひける
【現代語訳】
あなたは、さてどうでしょうね。
他人の心は分からないけれど、昔なじみのこの里では、梅の花だけがかつてと同じいい香りをただよわせていますよ。
【36】清原深養父(なつのよは~)
夏の夜は
まだ宵ながら
明けぬるを
雲のいづこに
月宿るらむ
【現代語訳】
夏の夜は(とても短いので)まだ宵の時分だなあと思っていたら、もう明けてしまった。
月も(西の山かげに隠れる暇もなくて)いったい雲のどこのあたりに宿をとっているのだろうか。
【37】文屋朝康(しらつゆに~)
白露に
風の吹きしく
秋の野は
つらぬき留めぬ
玉ぞ散りける
【現代語訳】
草の葉の上に乗って光っている露の玉に、風がしきりに吹きつける秋の野原は、まるで紐に通して留めていない真珠が、散り乱れて吹き飛んでいるようだったよ。
【38】右近(わすらるる~)
忘らるる
身をば思はず
誓ひてし
人の命の
惜しくもあるかな
【現代語訳】
忘れ去られる私の身は何とも思わない。
けれど、いつまでも愛すると神に誓ったあの人が、(神罰が下って)命を落とすことになるのが惜しまれてならないのです。
【39】参議等(あさぢふの~)
浅茅生(あさぢふ)の
小野の篠原
しのぶれど
あまりてなどか
人の恋しき
【現代語訳】
まばらに茅(ちがや)が生える、篠竹の茂る野原の「しの」ではないけれども、人に隠して忍んでいても、想いがあふれてこぼれそうになる。
どうしてあの人のことが恋しいのだろう。
【40】平兼盛(しのぶれど~)
しのぶれど
色に出でにけり
わが恋は
ものや思ふと
人の問ふまで
【現代語訳】
心に秘めてきたけれど、顔や表情に出てしまっていたようだ。
私の恋は、「恋の想いごとでもしているのですか ?」と、人に尋ねられるほどになって。
【41】壬生忠見(こいすてふ~)
恋すてふ(ちょう)
わが名はまだき
立ちにけり
人知れずこそ
思ひそめしか
【現代語訳】
「恋している」という私の噂がもう立ってしまった。
誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめたばかりなのに。
【42】清原元輔(ちぎりきな~)
契りきな
かたみに袖を
しぼりつつ
末の松山
波越さじとは
【現代語訳】
約束したのにね、お互いに泣いて涙に濡れた着物の袖を絞りながら。
末の松山を波が越すことなんてあり得ないように、決して心変わりはしないと。
【43】中納言敦忠(あひみての~)
逢ひ見ての
のちの心に
くらぶれば
昔はものを
思はざりけり
【現代語訳】
恋しい人とついに逢瀬を遂げてみた後の恋しい気持ちに比べたら、昔の想いなど、無いに等しいほどのものだったのだなあ。
【44】中納言朝忠(あふことの~)
逢ふことの
絶えてしなくは
なかなかに
人をも身をも
恨みざらまし
【現代語訳】
もし逢うことが絶対にないのならば、かえってあの人のつれなさも、我が身の辛い運命も恨むことはしないのに。(そんなに滅多に逢えないなんて)
【45】謙徳公(あはれとも~)
あはれとも
いふべき人は
思ほえで
身のいたづらに
なりぬべきかな
【現代語訳】
私のことを哀れだと言ってくれそうな人は、他には誰も思い浮かばないまま、きっと私はむなしく死んでいくのに違いないのだなあ。
【46】曾禰好忠(ゆらのとを~)
由良の門(と)を
渡る舟人(ふなびと)
かぢをたえ
ゆくへも知らぬ
恋の道かな
【現代語訳】
由良川の河口の流れが速い瀬戸を漕ぎ渡る船頭が、櫂をなくして行く先も分からずに漂っていく。
そんなようにこれからどうなるのか行く末が分からない私の恋の道行きだ。
【47】恵慶法師(やえむぐら~)
八重葎(やへむぐら)
しげれる宿の
さびしきに
人こそ見えね
秋は来にけり
【現代語訳】
つる草が何重にも重なって生い茂っている荒れ寂れた家。
訪れる人は誰もいないが、それでも秋はやってくるのだなあ。
【48】源重之(かぜをいたみ~)
風をいたみ
岩うつ波の
おのれのみ
砕けてものを
思ふころかな
【現代語訳】
風が激しくて、岩に打ち当たる波が(岩はびくともしないのに)自分だけ砕け散るように、(相手は平気なのに)私だけが心も砕けんばかりに物事を思い悩んでいるこの頃だなあ。
【49】大中臣能宣朝臣(みかきもり~)
御垣守(みかきもり)
衛士(ゑじ)の焚く火の
夜は燃え
昼は消えつつ
ものをこそ思へ
【現代語訳】
宮中の御門を守る御垣守(みかきもり)である衛士(えじ)の燃やす篝火が、夜は燃えて昼は消えているように、私の心も夜は恋の炎に身を焦がし、昼は消えいるように物思いにふけり、と恋情に悩んでいます。
【50】藤原義孝(きみがため~)
君がため
惜しからざりし
命さへ
ながくもがなと
思ひけるかな
【現代語訳】
あなたのためなら、捨てても惜しくはないと思っていた命でさえ、逢瀬を遂げた今となっては、(あなたと逢うために)できるだけ長くありたいと思うようになりました。
【51】藤原実方朝臣(かくとだに~)
かくとだに
えやは伊吹の
さしも草
さしも知らじな
燃ゆる思ひを
【現代語訳】
せめて、こんなに私がお慕いしているとだけでもあなたに言いたいのですが、言えません。
伊吹山のさしも草ではないけれど、それほどまでとはご存知ないでしょう。
燃えるこの想いを。
【52】藤原道信朝臣(あけぬれば~)
明けぬれば
暮るるものとは
知りながら
なほ恨めしき
あさぼらけかな
【現代語訳】
夜が明けてしまうと、また日が暮れて夜になる(そして、あなたに逢える)とは分かっているのですが、それでもなお恨めしい夜明けです。
【53】右大将道綱母(なげきつつ~)
歎(なげ)きつつ
ひとり寝(ぬ)る夜の
明くる間は
いかに久しき
ものとかは知る
【現代語訳】
嘆きながら、一人で孤独に寝ている夜が明けるまでの時間がどれだけ長いかご存じでしょうか ?
ご存じないでしょうね。
【54】儀同三司母(わすれじの~)
忘れじの
行く末までは
難(かた)ければ
今日を限りの
命ともがな
【現代語訳】
「いつまでも忘れない」という言葉が、遠い将来まで変わらないというのは難しいでしょう。
だから、その言葉を聞いた今日を限りに命が尽きてしまえばいいのに。
【55】大納言公任(たきのおとは~)
滝の音は
絶えて久しく
なりぬれど
名こそ流れて
なほ聞こえけれ
【現代語訳】
滝の流れる水音は、聞こえなくなってからもうずいぶんになるけれども、その名声だけは流れ伝わって、今でも人々の口から聞こえていることだよ。
【56】和泉式部(あらざらむ~)
あらざらむ
この世の外の
思ひ出に
今ひとたびの
逢ふこともがな
【現代語訳】
もうすぐ私は死んでしまうでしょう。
あの世へ持っていく思い出として、今もう一度だけお会いしたいものです。
【57】紫式部(めぐりあひて~)
めぐり逢ひて
見しやそれとも
わかぬ間に
雲がくれにし
夜半(よは)の月かな
【現代語訳】
せっかく久しぶりに逢えたのに、それがあなただと分かるかどうかのわずかな間にあわただしく帰ってしまわれた。
まるで雲間にさっと隠れてしまう夜半の月のように。
【58】大弐三位(ありまやま~)
有馬山
猪名(ゐな)の笹原
風吹けば
いでそよ人を
忘れやはする
【現代語訳】
有馬山の近くにある猪名(いな)にある、笹原に生える笹の葉がそよそよと音をたてる。
まったく、そよ(そうよ、そうですよ)どうしてあなたのことを忘れたりするものですか。
【59】赤染衛門(やすらはで~)
やすらはで
寝なましものを
さ夜ふけて
傾(かたぶ)くまでの
月を見しかな
【現代語訳】
(こんなことなら)ぐずぐず起きていずに寝てしまったのに。
(あなたを待っているうちにとうとう)夜が更けて、西に傾いて沈んでいこうとする月を見てしまいましたよ。
【60】小式部内侍(おおえやま~)
大江山
いく野の道の
遠ければ
まだふみもみず
天の橋立
【現代語訳】
大江山を越え、生野を通る丹後への道は遠すぎて、まだ天橋立の地を踏んだこともありませんし、母からの手紙も見てはいません。
【61】伊勢大輔(いにしへの~)
いにしへの
奈良の都の
八重桜
けふ九重に
にほひぬるかな
【現代語訳】
いにしえの昔の、奈良の都の八重桜が、今日は九重の宮中で、ひときわ美しく咲き誇っております。
【62】清少納言(よをこめて~)
夜をこめて
鳥の空音(そらね)は
謀(はか)るとも
よに逢坂(あふさか)の
関は許さじ
【現代語訳】
夜がまだ明けないうちに、鶏の鳴き真似をして人をだまそうとしても、函谷関(かんこくかん)ならともかく、この逢坂の関は決して許しませんよ。(だまそうとしても、決して逢いませんよ)
【63】左京大夫道雅(いまはただ~)
今はただ
思ひ絶えなむ
とばかりを
人づてならで
言ふよしもがな
【現代語訳】
今となっては、あなたへの想いをあきらめてしまおう、ということだけを、人づてにではなく(あなたに直接逢って)言う方法があってほしいものだ。
【64】中納言定頼(あさぼらけ~)
朝ぼらけ
宇治の川霧
たえだえに
あらはれわたる
瀬々(せぜ)の網代木(あじろぎ)
【現代語訳】
明け方、あたりが徐々に明るくなってくる頃、宇治川の川面にかかる朝霧も薄らいできた。
その霧がきれてきたところから現れてきたのが、川瀬に打ち込まれた網代木だよ。
【65】相模(うらみわび~)
恨みわび
ほさぬ袖だに
あるものを
恋に朽ちなむ
名こそ惜しけれ
【現代語訳】
恨んで恨む気力もなくなり、泣き続けて涙を乾かすひまもない着物の袖さえ(朽ちてぼろぼろになるのが)惜しいのに、さらにこの恋のおかげで悪い噂を立てられ、朽ちていくだろう私の評判が惜しいのです。
【66】大僧正行尊(もろともに~)
もろともに
あはれと思へ
山桜
花より外(ほか)に
知る人もなし
【現代語訳】
(私がお前を愛しく思うように)一緒に愛しいと思っておくれ、山桜よ。
この山奥では桜の花の他に知り合いもおらず、ただ独りなのだから。
【67】周防内侍(はるのよの~)
春の夜の
夢ばかりなる
手枕(たまくら)に
かひなく立たむ
名こそ惜しけれ
【現代語訳】
短い春の夜の、夢のようにはかない、たわむれの手枕のせいでつまらない浮き名が立ったりしたら、口惜しいではありませんか。
【68】三条院(こころにも~)
心にも
あらでうき世に
ながらへば
恋しかるべき
夜半の月かな
【現代語訳】
心ならずも、このはかない現世で生きながらえていたならば、きっと恋しく思い出されるに違いない、この夜更けの月が。
【69】能因法師(あらしふく~)
嵐吹く
三室(みむろ)の山の
もみぢ葉は
龍田(たつた)の川の
錦なりけり
【現代語訳】
山風が吹いている三室山(みむろやま)の紅葉(が吹き散らされて)で、竜田川の水面は錦のように絢爛たる美しさだ。
【70】良暹法師(さびしさに~)
寂しさに
宿を立ち出でて
眺むれば
いづこも同じ
秋の夕暮れ
【現代語訳】
あまりにも寂しさがつのるので、庵から出て辺りを見渡してみると、どこも同じように寂しい、秋の夕暮れがひろがっていた。
【71】大納言経信(ゆうされば~)
夕されば
門田(かどた)の稲葉
おとづれて
芦のまろやに
秋風ぞ吹く
【現代語訳】
夕方になると、家の門前にある田んぼの稲の葉にさわさわと音をたてさせ、芦葺きのこの山荘に秋風が吹き渡ってきた。
【72】祐子内親王家紀伊(おとにきく~)
音に聞く
高師(たかし)の浜の
あだ波は
かけじや袖の
ぬれもこそすれ
【現代語訳】
噂に高い、高師(たかし)の浜にむなしく寄せ返す波にはかからないようにしておきましょう。
袖が濡れては大変ですからね。
(浮気者だと噂に高い、あなたの言葉なぞ、心にかけずにおきましょう。後で涙にくれて袖を濡らしてはいけませんから)
【73】権中納言匡房(たかさごの~)
高砂の
尾の上(へ)の桜
咲きにけり
外山(とやま)の霞
たたずもあらなむ
【現代語訳】
遠くにある高い山の、頂にある桜も美しく咲いたことだ。
人里近くにある山の霞よ、どうか立たずにいてほしい。
美しい桜がかすんでしまわないように。
【74】源俊頼朝臣(うかりける~)
うかりける
人を初瀬の
山おろしよ
はげしかれとは
祈らぬものを
【現代語訳】
(私に冷淡で)つれないあの人が、私を想ってくれるようにと初瀬の観音様にお祈りをしたのに。
まさか初瀬の山おろしよ、お前のように、「より激しく冷淡になれ」とは祈らなかったのに。
【75】藤原基俊(ちぎりおきし~)
契(ちぎ)りおきし
させもが露を
命にて
あはれ今年の
秋も去(い)ぬめり
【現代語訳】
お約束してくださいました、よもぎ草の露のようなありがたい言葉を頼みにしておりましたのに、ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくようです。
【76】法性寺(わたのはら~)
わたの原
漕ぎ出でて見れば
久かたの
雲ゐにまがふ
沖つ白波
【現代語訳】
大海原に船で漕ぎ出し、ずっと遠くを眺めてみれば、かなたに雲と見間違うばかりに、沖の白波が立っていたよ。
【77】崇徳院(せをはやみ~)
瀬を早み
岩にせかるる
滝川の
われても末に
逢はむとぞ思ふ
【現代語訳】
川の瀬の流れが速く、岩にせき止められた急流が二つに分かれる。
しかしまた一つになるように、愛しいあの人と今は分かれても、いつかはきっと再会しようと思っている。
【78】源兼昌(あわじしま~)
淡路島
かよふ千鳥の
鳴く声に
いく夜寝覚めぬ
須磨の関守
【現代語訳】
(冬の夜)淡路島から渡ってくる千鳥の鳴き声に、幾夜目を覚まさせられたことだろうか、須磨の関守は。
【79】左京大夫顕輔(あきかぜに~)
秋風に
たなびく雲の
絶え間より
もれ出づる月の
影のさやけさ
【現代語訳】
秋風に吹かれて横に長くひき流れる雲の切れ目から、洩れてくる月の光の、澄みきった美しさといったらどうだろう !
【80】待賢門院堀川(ながからむ~)
長からむ
心も知らず
黒髪の
乱れて今朝は
ものをこそ思へ
【現代語訳】
(昨夜契りを結んだ)あなたは、末永く心変わりはしないとおっしゃっいましたが、どこまでが本心か心をはかりかねて、お別れした今朝はこの黒髪のように心乱れて、いろいろ物思いにふけってしまうのです。
【81】後徳大寺左大臣(ほととぎす~)
ほととぎす
鳴きつる方を
眺むれば
ただ有明の
月ぞ残れる
【現代語訳】
ホトトギスが鳴いた方を眺めやれば、ホトトギスの姿は見えず、ただ明け方の月が淡く空に残っているばかりだった。
【82】道因法師(おもひわび~)
思ひわび
さても命は
あるものを
憂(う)きに堪へぬは
涙なりけり
【現代語訳】
つれない人のことを思い嘆きながら、絶えてしまうかと思った命はまだあるというのに、辛さに絶えきれずに流れてくるのは涙だったよ。
【83】皇太后宮大夫俊成(よのなかよ~)
世の中よ
道こそなけれ
思ひ入る
山の奥にも
鹿ぞ鳴くなる
【現代語訳】
この世の中には、悲しみや辛さを逃れる方法などないものだ。
思いつめたあまりに分け入ったこの山の中にさえ、哀しげに鳴く鹿の声が聞こえてくる。
【84】藤原清輔朝臣(ながらへば~)
永らへば
またこの頃や
しのばれむ
憂(う)しと見し世ぞ
今は恋しき
【現代語訳】
この先もっと長く生きていれば、辛いと思っている今この時もまた懐かしく思い出されてくるのだろうか。
辛く苦しいと思っていた昔の日々も、今となっては恋しく思い出されるのだから。
【85】俊恵法師(よもすがら~)
夜もすがら
もの思ふ頃は
明けやらで
ねやのひまさへ
つれなかりけり
【現代語訳】
(いとしい人を想って)夜通しもの思いに沈むこの頃、夜がなかなか明けないので、(いつまでも明け方の光が射し込まない)寝室の隙間さえも、つれなく冷たいものに思えるのだよ。
【86】西行法師(なげけとて~)
嘆けとて
月やはものを
思はする
かこち顔なる
わが涙かな
【現代語訳】
「嘆け」と言って、月が私を物思いにふけらせようとするのだろうか ?
いや、そうではない。
(恋の悩みだというのに)月のせいだとばかりに流れる私の涙なのだよ。
【87】寂蓮法師(むらさめの~)
村雨(むらさめ)の
露もまだひぬ
槇(まき)の葉に
霧立ちのぼる
秋の夕暮れ
【現代語訳】
にわか雨が通り過ぎていった後、まだその滴も乾いていない杉や檜の葉の茂りから、霧が白く沸き上がっている秋の夕暮れ時である。
【88】皇嘉門院別当(なにはえの~)
難波(なには)江の
芦のかりねの
ひとよゆゑ
みをつくしてや
恋ひわたるべき
【現代語訳】
難波の入り江の芦を刈った根っこ(刈り根)の一節(ひとよ)ではないが、たった一夜(ひとよ)だけの仮寝(かりね)のために、澪標(みおつくし)のように身を尽くして生涯をかけて恋いこがれ続けなくてはならないのでしょうか。
【89】式子内親王(たまのおよ~)
玉の緒よ
絶えなば絶えね
ながらへば
忍ぶることの
よわりもぞする
【現代語訳】
我が命よ、絶えてしまうのなら絶えてしまえ。
このまま生き長らえていると、堪え忍ぶ心が弱ってしまうと困るから
【90】殷富門院大輔(みせばやな~)
見せばやな
雄島(をじま)の蜑(あま)の
袖だにも
濡れにぞ濡れし
色は変はらず
【現代語訳】
あなたに見せたいものです。
松島にある雄島の漁師の袖でさえ、波をかぶって濡れに濡れても色は変わらないというのに。
(私は涙を流しすぎて涙を拭く袖の色が変わってしまいました)
【91】後京極摂政前太政大臣(きりぎりす~)
きりぎりす
鳴くや霜夜の
さむしろに
衣かたしき
ひとりかも寝む
【現代語訳】
こおろぎが鳴いている、こんな霜の降る寒い夜に、むしろの上に衣の片袖を自分で敷いて、独り(さびしく)寝るのだろうか。
【92】二条院讃岐(わがそでは~)
わが袖は
潮干(しほひ)に見えぬ
沖の石の
人こそ知らね
乾く間もなし
【現代語訳】
私の袖は、引き潮の時でさえ海中に隠れて見えない沖の石のようだ。
他人は知らないだろうが、(涙に濡れて)乾く間もない。
【93】鎌倉右大臣(よのなかは~)
世の中は
常にもがもな
渚漕ぐ
海人(あま)の小舟(をぶね)の
綱手(つなで)かなしも
【現代語訳】
世の中の様子が、こんな風にいつまでも変わらずあってほしいものだ。
波打ち際を漕いでゆく漁師の小舟が、舳先(へさき)にくくった綱で陸から引かれている、ごく普通の情景が切なくいとしい。
【94】参議雅経(みよしのの~)
み吉野の
山の秋風
小夜(さよ)ふけて
ふるさと寒く
衣打つなり
【現代語訳】
奈良の吉野の山に、秋風が吹きわたる。
夜がふけて(吉野という)かつての都は寒々とわびしく、衣を砧(きぬた)で叩く音が響いている。
【95】前大僧正慈円(おほけなく~)
おほけなく
うき世の民に
おほふかな
わがたつ杣(そま)に
墨染(すみぞめ)の袖
【現代語訳】
身の程もわきまえないことだが、このつらい浮世を生きる民たちを包みこんでやろう。
この比叡の山に住みはじめた私の、墨染めの袖で。
【96】入道前太政大臣(はなさそふ~)
花さそふ
嵐の庭の
雪ならで
ふりゆくものは
我が身なりけり
【現代語訳】
桜の花を誘って吹き散らす嵐の日の庭は、桜の花びらがまるで雪のように降っているが、実は老いさらばえて古(ふ)りゆくのは、私自身なのだなあ。
【97】権中納言定家(こぬひとを~)
来ぬ人を
まつほの浦の
夕なぎに
焼くや藻塩(もしほ)の
身もこがれつつ
【現代語訳】
松帆の浦の夕なぎの時に焼いている藻塩のように、私の身は来てはくれない人を想って、恋い焦がれているのです。
【98】従二位家隆(かぜそよぐ~)
風そよぐ
ならの小川の
夕暮れは
みそぎぞ夏の
しるしなりける
【現代語訳】
風がそよそよと吹いて楢(ナラ)の木の葉を揺らしている。
この、ならの小川の夕暮れは、すっかり秋の気配となっているが六月祓(みなづきばらえ)のみそぎの行事だけが、夏であることの証なのだった。
【99】後鳥羽院(ひともおし~)
人もをし
人も恨めし
あぢきなく
世を思ふ故に
もの思ふ身は
【現代語訳】
人間がいとおしくも、また人間が恨めしくも思われる。
つまらない世の中だと思うために、悩んでしまうこの私には。
【100】順徳院(ももしきや~)
百敷(ももしき)や
古き軒端(のきば)の
しのぶにも
なほあまりある
昔なりけり
【現代語訳】
宮中の古びた軒から下がっている忍ぶ草を見ていても、しのんでもしのびつくせないほど思い慕われてくるのは、古きよき時代のことだよ。
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(記事執筆時)
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